「熊本県国土強靱化地域計画」(素案)に意見表明
2021.12.07
~防災教育や地震保険等の加入促進を要望~
一般社団法人 日本損害保険協会九州支部熊本損保会(以下「熊本損保会」という) 会長 宮脇 英寿(三井住友海上火災保険株式会社 熊本支店長)では、熊本県が2021年10月29日(金)~11月27日(土)の間に実施した「熊本県国土強靱化地域計画」(素案)」に関するパブリック・コメント(意見募集)に対し、意見表明を行いました。
今回の見直しは、近年の災害等から得られた教訓や国の基本計画の見直し等を踏まえ、策定から5年目を迎えた計画を見直し、「愛する地域で誰もが安全・安心に住み続けられ、災害に強い郷土づくり」を目指し、熊本県における国土強靭化の取組みをさらに推進していくことを目的としており、概要は以下のとおりです。
≪「熊本県国土強靱化地域計画」(素案)の概要≫
1 基本目標
国土強靭化基本法第14条において、県の国土強靭化地域計画は、国の基本計画との調和が保たれたものでなければならないとされ、国土強靭化地域計画策定ガイドラインにおいては、国土強靭化地域計画の目標は、基本計画における目標と調和を保つよう留意することとされている。
このため、熊本県においては、「新しいくまもとの創造に向けた基本方針」、において掲げた、「熊本地震と令和2年7月豪雨からの創造的復興を両輪に、新型コロナウイルス感染症による社会の変容を見据え、持続可能な『新しいくまもと』を創造する」という基本理念を念頭に、本県が国土強靭化を推進する上での基本目標として、次の6つを掲げ、関連施策の推進に努めるものとする。
➀県民の生命を守ること
②県及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること
③県民の財産及び公共施設に係る被害を最小化すること
④被災された方々の痛みを最小化すること
⑤被災した場合も迅速な復旧・復興を可能にすること
⑥九州を支える防災拠点として機能すること
2 強靭化を推進する上での基本的な方針
国土強靭化の理念を踏まえ、大規模自然災害に備えて、事前防災、減災及び迅速な復旧・復興に資する強靭な地域づくりについて、東日本大震災や熊本地震、令和2年7月豪雨など過去の災害から得られた経験を教訓としつつ、以下の方針に基づき推進する。
(1)強靭化に向けた取組姿勢
➀本県の強靭化を損なう要因についてあらゆる側面から検討を加え、取組みにあたること。
②短期的な視点のみならず、長期的な視野も持って計画的な取組みにあたること。
③地域の活力を高め、地域経済の持続的な成長につなげるとともに、県内各地域の特性を踏まえつつ、地域間の連携を強化する視点を持つこと。
④大規模自然災害に備え、県及び市町村の連携だけでなく、国、他都道府県及び民間との連携を強化し、広域的な受援・応援体制を整備すること。
⑤九州を支える広域防災拠点として、県境を越える広域的な災害に対応できるような体制を整備すること。
(2)効率的かつ効果的な施策の推進
➀災害リスクや地域の状況等に応じて、防災施設の整備、施設の耐震化、代替施設の確保等のハード対策と訓練・防災教育等のソフト対策を適切に組み合わせて効果的に施策を推進するとともに、このための体制を整備し、必要に応じて見直すこと。
②「自助」、「共助」及び「公助」を適切に組み合わせ、官(国、県、市町村)と民(住民、民間事業者等)が適切に連携及び役割分担して取り組むこと。
③非常時に防災・減災等の効果を発揮するのみならず、平時にも有効に活用される対策となるよう工夫すること。
④人口の減少や社会資本の老朽化等を踏まえるとともに、財政資金の効率的な使用による施策の持続的な実施に配慮して、施策の重点化を図ること。
⑤国の施策の適切かつ積極的な活用、既存の社会資本の有効活用、民間資金の積極的な活用を図ること等により、効率的かつ効果的に施策を推進すること。
⑥施設等の効率的かつ効果的な維持管理に資すること。
⑦人命を保護する観点から、関係者の合意形成を図りつつ、土地の合理的利用を促進すること。
(3)地域の特性に応じた施策の推進
➀地域の強靭化の推進には、地域の共助による取組みも重要であることから、人のつながりやコミュニティ機能の維持に努めること。
②高齢者、障がい者、外国人、女性、子ども等の状況に配慮して施策を講じること。
③自然との共生、環境との調和及び景観の維持に配慮すること。
これに対し、熊本損保会では、地域における安全・安心を推進する観点等から、以下7点の意見表明を行っています。
≪意見内容≫
○第5章 1.(1-1)(学校の教育災害対応の機能向上)、1.(1-2)(学校の教育災害対応の機能向上)(P.25)
児童・生徒が自らの命を守れるよう主体的な行動を育成することについて、賛同いたします。
本協会においても文部科学省や消防庁等の多くの省庁にご後援いただいている小学生向けの「ぼうさい探検隊」という教育プログラムを長年実施しております。小学生目線での街歩きの中で大人では気づきにくい危ない場所(子供や高齢者には危険な避難路など)が見つけるなど、自らの命を守れるよう主体的な行動を育成するプログラムとなっていると考えております。当該プログラムも参考に、より実践的な防災教育を推進いただければと考えております。
○第5章 1.(1-4)(事前予測が可能な災害への対応)、4.(4-3)(事前予測が可能な災害への対応)(P.31,53)
住民一人ひとりの避難行動を時系列に明確にした熊本県版タイムラインの普及について賛同いたします。
〇第5章 5.(5-1)サプライチェーン寸断等による企業の生産力低下による競争力の低下(P.55)
サプライチェーンの寸断等から早期に復興できるよう県内事業者の事業継続計画(BCP)策定を促進することに賛同いたします。
なお、経済活動等に甚大な影響を及ぼす大規模災害が相次いで発生する中、小規模事業者の自然災害等への事前の備え、事後のいち早い復旧を支援するため、熊本県において、積極的に中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化支援計画」の策定を進めていることは承知しておりますが、より多くの事業者が策定するように更なる支援・普及をお願いしたい。
〇第5章 7.(7-7)火山噴火による地域社会への甚大な影響(P.69)
火山噴火による地域社会への甚大な影響を回避するため「阿蘇山噴火時の避難体制の整備」、「登山者情報の把握の推進」、「災害対応業務の標準化・共有化」、「防災訓練の実施」および「降灰対策の推進」の施策に賛同いたします。
なお、県が公表する阿蘇山火山防災マップによると、中規模噴火における降灰後の土石流および、大規模噴火における溶岩流が住宅地まで押し寄せることが推定されています。8-3に含まれているかもしれませんが、噴火関連の推進方針として、当該地域等における更なる地震保険の加入促進を図るようご検討いただきたい。
〇第5章 8.(8-3)被災者の生活再建が大幅に遅れる事態(P.73)
熊本県においては「熊本地震」や「令和2年7月豪雨」など短期間に大規模災害に見舞われ、2020年国勢調査において球磨村人口減少率が全国最大となるなど、被災者等が住み慣れた地域を離れざるをえない実態がある中で、より「被災者の生活再建が大幅に遅れる事態」に対して災害対策先進県として「強靭化の推進方針」を強く打ち出すべきと考えます。
我が国に居住する限り、台風・豪雨および地震等の自然災害の回避が不可能であり、「直接死を最大限防ぐ」ことを想定するような災害においては多くの住宅等が被災するものと考えられます。個人所有住宅が被災した場合には被災者生活再建支援制度(公助)や寄付金分配(共助)などがあるものの、その支給額は被災財産のごく一部の補償となっており、内閣府が設置した会議※においても「自然災害からの住宅再建等の生活再建についても「自助」による取組が基本」であるとしていることから、「(8-3)被災者の生活再建が大幅に遅れる事態」においては、被災住民の財産(特に住宅)へのリスク軽減(例:災害に備える住宅)およびリスクファイナンシング(例:火災保険や地震保険)等の自助に関する推進方針をご提示いただきたい。
※令和2年7月「被災者生活再建支援制度の在り方に関する実務者会議」
〇第5章 8.(8-3)被災者の生活再建が大幅に遅れる事態(P.73)
今回の計画においては、令和2年7月豪雨災害などを踏まえ、地震以外の自然災害に備えた適切な保険等への加入促進まで踏み込まれていることを評価いたします。
しかし、タイトル等が「地震保険加入率の向上」や「地震保険など自然災害に備えた適切な保険」との記載になっており、県の意図が読み取りづらいところがあるため「自然災害(地震・水災等)を補償する保険や共済」などの表記のほうが、より分かりやすいのではないかと思慮いたします。
また、熊本県の地震保険の世帯加入率は43.5%と全国第2位の高水準となっております。当該高水準は県民意識もちろん、これまでの県の啓発活動等によるところが多いと考えておりますが、基本方針にもあるように自助・共助及び公助の適切な組み合わせを考えると、更なる普及が必要と考えており、災害対策先進県として地震保険の世帯加入率を重要業務指標として導入することをご検討いただきたい。
〇第5章 8.(8-7)事業用地の確保、仮設住宅・仮店舗・仮事業所等の整備が進まず復興や大幅に遅れる事態(P.77)
8-7(地震保険加入率の向上)についても、店舗併用住宅は地震保険の補償対象となることから、地震保険など自然災害に備えた適切な保険等への加入促進に関して賛同いたします。
その一方で、事業用施設・設備に対しても、地震や洪水等の自然災害に見舞われるリスクがあることから、県民が安らかに住み、働く環境を確保する観点から事業者向けのリスク軽減策(耐震化・止水板の設置等)や代表的なリスクファイナンシング手法である自然災害を補償する保険の普及促進を図るべきと考えます。
特に、当該施策の普及に際しては5-1の推進方針であるBCP策定促進を通じて、その計画を具現化することで実現されるものと考えているので、商工労働部を中心にご検討いただけると効果的と考えます。
熊本損保会では、今後も行政や関係機関と協力し、地域における安全・安心に資する取り組みを継続的に推進していきます。