協会長ステートメント(2015年6月11日)
会長 櫻田 謙悟
2015.06.11
日本損害保険協会会長として、この1年間の主な取組みや出来事を振り返り、ご報告と所見を申し上げます。
1.はじめに
この1年間を振り返りますと、昨年8月の広島の土砂災害をはじめとした豪雨や台風11号、9月の御嶽山噴火、11月の長野県北部地震など数多くの自然災害が発生し、各地に大きな被害をもたらしました。改めまして、お亡くなりになられた皆さまに哀悼の意を表しますとともに、被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
昨年6月の協会長就任以来、「第6次中期基本計画」(2012年度~2014年度)の最終年度にあたり、これまでの取組みの総仕上げとして、「社会的損失の低減」、「わかりやすさの向上」、「損害保険事業の環境整備」の3つを重点取組課題と位置づけ推進してきました。
また、5年・10年先を見据えた損害保険業界の課題の整理を行い、本年4月から新たな3か年計画である「第7次中期基本計画」の取組みをスタートさせました。
2.第6次中期基本計画最終年度としての主な取組み・総括
(1)社会的損失の低減に向けた取組み ~安全・安心な社会への貢献~
事故や災害、犯罪などを防止・軽減し、社会的損失を低減させる取組みは、社会や消費者に対する安心と安全への貢献という観点からも、損害保険業界として重要な使命と認識し、不正請求防止の取組みや安全・防災の啓発活動など、幅広い活動を行ってまいりました。
ア.保険金詐欺、不正請求防止の取組み
これまで損害保険業界では、損害保険協会や損害保険各社が一丸となって、保険金詐欺や不正請求の防止に向けた取組みを推進してきました。具体的には、損害保険協会に専門部署である「保険金不正請求対策室」を設置(2013年1月)し、不正請求の実態把握に向けデータ整備を進めるとともに、不正請求の通報窓口として「不正請求ホットライン」を開設しました。ホットラインには、これまで約800件の情報が寄せられ、保険金詐欺を未然に防ぐなど具体的な成果につながっています。
また、グループで不正請求を繰り返す集団を検出するため、関係者のネットワークを図式化するシステムの運用を開始(2014年5月)したほか、本年4月からは、各社が過去の保険金請求歴を共有し、不正請求疑義事案の早期検知に活用する「保険金請求歴情報交換制度」を、自動車保険など「ヒト」に関わる保険でスタートさせるなど、システムインフラの整備も進めています。
今後は、「保険金請求歴情報交換制度」を全種目に拡大するなど、引続き実効性の高い取組みを実行し、不正請求防止に一層努めてまいります。
イ.安全や防災の啓発活動の取組み
損害保険協会では、これまで蓄積してきたノウハウを活かした防災・減災教育を積極的に推進しているほか、防災・減災や交通安全に資する情報をさまざまな場面や媒体を通じて発信しています。
本年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議では、国連主催の本体会議と、一般市民向けのパブリックフォーラムのそれぞれに参画しました。本体会議では、「自然災害のリスク移転と保険」をテーマとした国際ワーキングセッションにおいて、協会長として日本を代表してパネルディスカッションに参加し、地震災害からの迅速な復旧・復興という面から、日本の地震保険制度が極めて有効に機能している点などについてプレゼンテーションを行いました。また、パブリックフォーラムにおいては、「地震保険」と「防災教育」をテーマに情報発信を行いました。このうち、「防災教育フォーラム」では、本年度12年目となる「ぼうさい探検隊」のこれまでの取組みを振り返るとともに、子どもたちを主役とした、地域に根ざした防災・減災教育の今後のあり方について、有識者によるパネルディスカッションを開催しました。
また、損害保険協会は、文部科学省が推進している「土曜日の教育活動推進プロジェクト」における「土曜学習応援団」に本年度から参加しています。同プロジェクトでは、小学生から高校生までを対象に、地域における多様な学習や体験活動の機会の充実などを目的として、様々なテーマによる教育活動が実践されています。損害保険協会は、「ぼうさい探検隊」を中心とした教育カリキュラムを、「土曜学習応援団」の場を通じて提供することで、地域特性を踏まえた防災・減災教育を推進していきます。
(2)わかりやすさの向上に向けた取組み ~より深くご理解いただくために~
お客さまに損害保険の商品やサービスをより深くご理解いただけるよう、わかりやすさの向上に向けたさまざまな取組みを推進してまいりました。
ア.共通化・標準化の取組み
わかりやすい保険商品の説明を実現できる募集文書のあり方等について検討を行い、2013年9月に契約概要・注意喚起情報(重要事項)に関するガイドラインを改定するとともに、重要事項説明書の標準例を作成し、公表しました。この標準例を参考に、会員各社において重要事項説明書の改定が行われています。
また、2014年6月に「高齢者に対する保険募集のガイドライン」を策定したほか、保険金支払いに関する事務ルールの標準化や、保険募集に関するガイドライン等の策定、コンプライアンスに関するルール・ノウハウの共通化にも取り組んでまいりました。
これらの取組みの結果、この3年間で、68課題の共通化・標準化を実現しました。
イ.品質向上の取組み
損害保険協会では、損害保険募集人が一層のステップアップを目指す仕組みとして、一般社団法人日本損害保険代理業協会と共同で2012年7月に「損害保険大学課程」の教育制度を導入しました。同課程の専門コース試験に合格し、「損害保険プランナー」に認定された募集人は、現在までに約6.4万人に達しています。また、損害保険プランナーのうち、さらに実践的な知識や業務スキルを習得した損害保険募集人に付与される最高峰の資格である「損害保険トータルプランナー」は、2014年6月に第1期が誕生して以降、これまでに9,596人が認定されています。
また、2014年9月には、損害保険トータルプランナーが在籍する代理店の検索サイトを損害保険協会のホームページ上に開設し、2015年6月1日時点で2,155代理店、3,725人の情報を掲載しており、優良な募集人が在籍するお近くの代理店を、消費者が住所や郵便番号から検索できるようになっています。
損害保険業界では、今後も損害保険募集人の知識やスキルを高めるための取組みを推進してまいります。
(3)環境整備に向けた取組み ~より健全で安定的なサービス提供のために~
我が国の経済発展や安心かつ安全な社会の形成に貢献できる、より健全で安定的なサービス提供のために、国内外の制度や規制、税制問題などへの積極的な意見表明や要望を行い、損害保険事業の環境整備に資する取組みを推進してまいりました。
ア.改正保険業法、民法改正への対応
2016年5月29日に施行される改正保険業法では、意向把握義務や情報提供義務、さらには保険募集人に対する体制整備義務の導入など、損害保険の募集実務に大きく影響する項目が盛り込まれています。損害保険協会では、損害保険業界のサービス品質向上のためにより良い制度となるよう、金融庁へ意見提出を行ってまいりましたが、今後、お客さまからの一層の信頼向上のため、関連するガイドラインや事務手続きの見直しなど、施行に向けた準備をしっかりと進めてまいります。
また、民法(債権法)の見直しにおいては、変動制となる法定利率を損害賠償額算定にかかる中間利息控除に用いるなど、損害保険実務への大きな影響が想定される事項が含まれていたことから、損害保険協会として意見提出を行ってきましたが、これを踏まえた民法改正案が、今通常国会に上程されています。
イ.国際規制などへの対応
金融・保険のグローバル化にともない、各国の金融・保険規制の国際的な統一、調和の必要性が高まっており、国際的な監督基準策定の動きが進んでいます。損害保険協会では、昨年10月に開催された保険監督者国際機構(IAIS)の年次会合において実施された、「グローバルな保険資本基準(ICS)」にかかるオブザーバー・ヒアリングにおいて、生命保険協会と共同で意見表明を行ったほか、本年5月に東京で開催されたステークホルダー会合においても、日本の損害保険業界の主要関心事について意見表明を行うなど、国際機関における検討に際して積極的な要望・提言を実施してきました。今後とも、国際的に調和の取れた基準が策定されるよう、本邦業界として積極的な提言を行ってまいります。
また、3月20日付でインドの改正保険法が成立し、外資出資上限の49%までの引上げや、外国再保険会社の支店設立などが認められました。損害保険協会では、これまで国際保険協会連盟(GFIA)などの国際的な枠組みを通じて、インド政府などに規制緩和の働きかけを行ってきました。保険加入率が低く潜在力を秘めた、発展性の高いインド市場において、日本を含む外国企業の事業機会が拡大することにより、今後同国市場の一層の発展が期待されます。
ウ.アジア諸国へのインフラ支援
損害保険協会では、損害保険料率算出機構や公益財団法人損害保険事業総合研究所と連携して、アジアなどの新興国を中心に、我が国の損害保険業界が培ってきた料率算定制度などのソフトインフラのノウハウ提供に取り組んでいます。
昨年度は、10月にクアラルンプールで開催された、カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムの保険監督者を対象とした財務省とマレーシア中央銀行共催のセミナーにおいて、保険技術支援プログラムへの講師派遣を行いました。
また、11月にベトナムで開催された、金融庁主催のワークショップにおける、損害保険料率算出機構の料率算出制度に係るプレゼンテーションへの協力などを行ってきました。
引き続きアジアの金融インフラ整備支援に資する、保険技術協力を中心とした積極的な取組みを推進してまいります。
エ.税制改正要望
税制改正要望について、損害保険協会は、重点要望項目として「受取配当等の二重課税の排除」を要望していましたが、平成27年度税制改正において、受取配当等の益金不算入制度の縮減等が決定されました。ただし、保険会社については、影響が広くお客さまに及ぶおそれがあることなどから、持株比率5%以下の株式からの受取配当等について益金不算入割合を40%とする特例が創設されました。
3.第7次中期基本計画の取組み
損害保険協会は、本年度が初年度となる第7次中期基本計画(2015年度~2017年度)を4月からスタートしました。
今回の中期計画においては、損害保険業の健全な発展と信頼性の向上を通じて安心・安全な社会づくりに貢献していくことを目的とし、5年・10年先の環境と損害保険業界に与える影響を見据え、「超高齢社会」、「グローバル化」、「新たなリスク」、「自然災害」、「保険犯罪」、「新たな募集態勢の構築」、「消費者からの相談・苦情・紛争解決」、「消費者教育」の8項目を重点課題として位置づけています。このうち、「超高齢社会」については、外部有識者による「高齢者タスクフォース」を5月に立ち上げるなど、超高齢社会において見込まれる課題、損害保険業界が果たすべき役割について、具体的な検討を開始しております。
4.おわりに
我が国においては、地震災害や風水災のほか、先月に口永良部島で発生したような噴火災害など、今後も自然災害が頻発することが想定されます。損害保険協会としては、自然災害に対する保険ニーズへの対応や、被害に遭われたお客さまへの迅速かつ適正な保険金支払対応に加え、これまでに培ってきたさまざまな知見を活かして、地域特性に応じた防災・減災の提案を行うことなどを重要な課題と認識しており、災害へのレジリエンス(耐力)の強い社会作りに貢献していくための取組みを推進してまいります。
この1年間、協会長として業務を遂行するにあたり、皆さまから温かいご支援、ご協力をいただいたことにつきまして、心より厚く御礼申し上げます。
引き続き、損害保険業界・損害保険協会に対するご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。
以 上