協会長就任にあたって
会長 鈴木 久仁
2015.06.30
日本損害保険協会会長就任にあたり、以下のとおり所信を申し上げます。
1.環境認識
我が国の経済は、原油安・円安などの外部環境の追い風もあり、企業業績が向上していることに加え、株高による資産効果や雇用・所得環境の改善による底堅い消費活動にも見られるように、緩やかな回復を続けています。また、女性や高齢者の労働参画意欲の高まりや、イノベーションの推進、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催など、将来への期待も感じられる状況となっております。
一方、人口減少の進行と超高齢社会の到来、地方創生の実現、経済の更なるグローバル化など、日本経済の持続的成長に向けた課題は山積しております。また、昨今の地震・噴火等の発生にも見られるように、今後も自然災害が頻発することが懸念され、我が国を取り巻く環境の不確実性は高まっているものと認識しております。
こうした状況を踏まえ、日本損害保険協会では、第7次中期基本計画を策定し、今年度より3カ年にわたる取組みをスタートしております。この中期基本計画では、5年・10年先を見据え、会員各社が環境変化に伴う時代の要請に確実に応えるため、「超高齢社会」、「新たなリスク」、「自然災害」をはじめとした8つの重点課題を掲げております。損害保険業界がこれらの課題への取組みを通じて、社会の安定と経済の発展を支え、「安心・安全な社会づくり」へ貢献できるよう、協会長として先頭に立って取り組んでまいります。
2.協会長としての取組み方針
我が国では、近年の大規模自然災害での経験を踏まえ、国および地方自治体による防災・減災対策(公助)とともに、自分自身で命や財産を守ること(自助)および地域コミュニティ等での相互の支えあい(共助)の重要性が改めて見直されています。
政府においても、自助・共助の強化によって地域の防災力を高める様々な取組みを推進しており、これらをサポートするためには、多様な主体による地域に根差した活動が有効であると考えます。
日本損害保険協会は、全国に11支部、36の損保会を組織し、これまでも地域において「安心・安全な社会づくり」に向けた様々な取組みを行ってまいりました。事故や災害による社会的損失を軽減することは、より良い保険商品・サービスの提供と同様に、損害保険業界に課せられた使命であります。そのため、第7次中期基本計画の中でも今年度は特に、自助・共助の重要性を伝える取組みに関する課題である「自然災害」及び「消費者教育」を、当協会の有するリソースを活用して、重点的に取り組んでまいります。
3.重点取組み
以上の環境認識、取組み方針に基づき、次の3点を重点取組みとして推進してまいります。
(1)消費者向け啓発・教育活動の推進
自助・共助の重要性を伝えるために、世代別の消費者向け啓発・教育活動を推進してまいります。
小学生向けには、子どもたちが楽しみながら、まちを探検し、まちにある防災・防犯・交通安全に関する施設や設備を発見して安全マップを作成する「ぼうさい探検隊」を推進してまいります。今年度はすべての教科書(小学校3・4年生、社会科)に「まちの安全マップ」等の項目が取り上げられており、各地域での「ぼうさい探検隊」の活動が教育の一助となることを期待しております。また、文部科学省が推進している「土曜日の教育活動推進プロジェクト」における「土曜学習応援団」の場も活用し、より多くの子どもたちに、安全・防災意識が広まるよう積極的な取組みを進めてまいります。
高校生・大学生に対しては、社会生活におけるリスクの存在と損害保険の有用性についての理解を深めていただくため、各種講座を広めていけるよう関係機関に働きかけていきたいと考えております。
高齢者に対しては、近年の事故の特徴を分析した上で、本人だけでなく家族や一般ドライバーなど周囲の方にも事故防止・低減を呼びかけてまいります。また、子どもたちと一緒に「ぼうさい探検隊」へ参加いただくことで、地域コミュニティの防災力はさらに高まるものと考えられるため、高齢者に対する参加の働きかけも進めていきたいと考えております。
(2)地震保険の普及促進
被災者に予期せぬ経済的負担をもたらす地震災害に対しては、当面の生活を支えるための「自助」による備えが重要であり、地震保険はその有効な手段の一つとして挙げられます。東日本大震災の際には、1.2兆円を超える保険金を被災された方々にお届けし、生活再建にお役立ていただくことができました。
日本損害保険協会では、これまでも、地震保険の普及促進に向けた様々な取組みを行ってまいりましたが、都道府県別に見ると地震保険付帯率には差が生じております。そのため今年度は、付帯率の底上げを図る観点から、重点取組地域として11道府県を選定し、これらを中心に広報活動を行うなど、地震保険の一層の普及に努めてまいります。
(3)地域の実態に応じた「防災・減災」取組みの推進
我が国は、地理的・気候的な特性から、多くの自然災害に見舞われてまいりました。その災害形態には地域特性が従来からありましたが、近年では想定を上回る規模の災害や、局地的な集中豪雨による都市型水害が発生するなど、災害形態が大規模化・多様化する傾向にあります。こうした状況を踏まえると、自然災害による被害軽減に向けては、住民が居住地域の災害特性を理解する必要性は以前にも増して高まっていると言えます。
そのため今年度は、従来からの各支部独自の活動に加え、災害多発地域や記録的な災害が発生した地域を中心に 6地区程度を重点取組地域として選定し、各地区の実態に応じた防災・減災の啓発活動を各自治体等と連携しながら実施してまいります。
4.各種課題への取組み
また、上記3点の重点取組みに加え、第7次中期基本計画の初年度として以下の各種課題にも積極的に取り組んでまいります。
「超高齢社会」への取組みとしては、高齢者による交通事故の防止・削減を重要かつ喫緊の課題と認識して進めてまいります。2060年には人口に占める65歳以上の高齢者割合が約4割に高まると推測される中、高齢者が交通事故死亡者となる割合はすでに5割強となっており、今後その割合は増加すると考えられます。また、高齢者が被害者だけではなく加害者となるケースも増加するなど、その発生形態には様々なパターンがあります。そのため、高齢者による事故実態を専門家とともに分析し、高齢者にかかる交通事故防止・削減に向けた効果的なツールを作成するなどして、その啓発活動に取り組んでまいります。また、保険募集時や保険金請求時において、高齢者やその家族の方にスムーズにご理解いただけるよう、協会内にプロジェクトチームを立ち上げ、課題解決に向けた分析、対応策の検討、ルールの見直しを行ってまいります。
「新たなリスク」への取組みとしては、現在、様々な分野で生まれている技術革新の潮流を踏まえ、これにより生じる諸課題を業界として検討・整理してまいります。自動走行システム、介護ロボット等の新たな技術は国民生活をより豊かにすることが期待されます。そのため、こうした技術が社会に広く普及するよう、新技術の実用化が損害保険業界に与える影響に関する研究・整理を行い、各社共通となる事業基盤の整備に資する取組みを推進してまいります。
「グローバル化」への取組みとしては、保険監督者国際機構(IAIS)が策定を進めている国際的な規制の動向を注視し、国内法制度への影響等を踏まえた要望・提言を行ってまいります。併せて、アジア諸国の金融インフラ整備支援や各国の保険協会との関係強化等、各国の損害保険市場の健全な発展と会員会社の海外事業基盤の整備に資する取組みを行ってまいります。
「保険犯罪」への取組みとしては、組織的犯罪の増加や犯罪手口の高度化・巧妙化を踏まえ、不正請求排除のためのシステムインフラ整備等の取組みを充実させ、健全な保険制度の維持に取り組んでまいります。
「新たな募集態勢の構築」、「消費者からの相談・苦情・紛争解決」への取組みとしては、 改正保険業法を踏まえた業界共通ガイドラインの提供、各資格試験の更なる改善、「そんぽADRセンター」の一層の態勢強化等により、業界全体の募集・業務品質向上に取り組んでまいります。
また、「税制改正要望」に関しては、損害保険会社が担う社会的役割を十分に果たしていくという観点から、取り組んでまいります。
5.おわりに
日本損害保険協会は、前身となる大日本聯合火災保険協会の設立(1917年)から、2年後の2017年で100周年を迎えます。この約1世紀、我が国の経済・社会は多くの苦難を乗り越え、目覚ましく発展してきました。この間、損害保険業界はモータリゼーションや企業の海外進出、度重なる自然災害への対応等、時代の要請に応え、様々な保険商品・サービスを通じて、日本経済の発展と社会の安定、国民生活の安心・安全に貢献してまいりました。
今年度よりスタートした第7次中期基本計画は次の100年にバトンを渡すものとなります。これからも、損害保険業界が社会の期待に応え、「安心・安全な社会づくり」に貢献できるよう、会員各社一丸となって、取り組んでまいります。皆様のご支援・ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。
以 上