協会長ステートメント(2015年12月17日)
会長 鈴木 久仁
2015.12.17
日本損害保険協会の会長に就任し、約6ヶ月が経過いたしました。この間における主な取組みにつきまして、ご報告するとともに所感を申し上げます。
1.重点取組みについて
(1)消費者向け啓発・教育活動の推進
小学生向けの防災教育プログラムである「ぼうさい探検隊」の取組みは、今年度で12年目を迎えました。今年度は、高齢者を交えた取組みや土曜学習応援団の場を活用した取組み等、各地域において特色ある新たな活動を進めてきたこともあり、「ぼうさい探検隊マップコンクール」に、過去最多となる588団体から2,506マップのご応募をいただきました。応募されたマップの中には、交通事故への注意喚起を促すものや、近年における防災・減災への関心の高まりを背景として、津波や洪水等が発生した際の避難経路を策定したもの、特に高齢者の避難支援を意識したマップが多く見られました。なお、先日、専門委員の審査によって、本コンクールの入選17作品を決定しており、来年1月23日には、入賞した9団体の子どもたちを招いて、表彰式を開催する予定です。
また、東日本大震災発生から5年という節目を迎えるにあたり、来年3月8日に、防災・減災をテーマとした大学生向けの特別講座・シンポジウムを東京で開催いたします。首都直下地震などの巨大自然災害の発生が懸念されるなか、私たちは国難と言われた未曾有の災害によって与えられた教訓を決して忘れずに、将来に活かさなければなりません。この特別講座・シンポジウムを契機として、これからの社会を担う大学生に、巨大自然災害等のリスク認識や防災・減災意識を高めてもらい、自助・共助の重要性について学んでいただくとともに、今後、地域防災を担うリーダーとなっていただけるよう、取り組んでまいります。
(2)地震保険の普及促進
今年度定めた重点取組み地域(11道府県)において、地域の特徴を踏まえたフォーラムイベントを10月から開催しております。これまでに北海道・富山県・長野県・京都府・兵庫県の5地域で開催し、地域住民の方々を中心に多数のご参加をいただきました。フォーラムでは、地震の専門家や行政の防災責任者、都道府県損害保険代理業協会の各地の代表者による、地域の地震リスク実態や防災計画、地震保険の必要性に関する講演を行い、地震災害に対する自助・共助の重要性をお伝えしてまいりました。こうした地域に根差した活動を通じて、より多くの方に地震保険の有効性をご理解いただき、地震保険が一層普及するよう取り組んでまいります。
(3)地域の実態に応じた「防災・減災」取組みの推進
今年も台風15号や18号をはじめとした自然災害が相次ぎ、九州地方や関東・東北地方を中心に甚大な被害がもたらされました。こうした自然災害による被害を少しでも軽減するためにも、防災・減災の重要性は一層高まっていると言えます。
当協会では、京都府、和歌山県、広島県、徳島県、高知県、熊本県にて地域の実態に応じた防災・減災の啓発活動を進めてまいります。12月20日に開催する熊本県では、阿蘇山の噴火リスクを踏まえ、大学教授等の専門家をお招きし、噴火災害の特徴や防災・減災に向けた事前対策をテーマとした講演・シンポジウムを開催いたします。また、徳島県では、南海トラフ地震による津波リスクを踏まえ、未就学児童を対象とした避難訓練等を開催する予定です。その他の地域においても、地震・津波・洪水・土砂災害等、各地域で懸念される自然災害を踏まえた内容の啓発活動を実施してまいります。
2.各種課題への取組みについて
(1)超高齢社会への取組み
世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでいる我が国において、高齢者が関わる交通事故の防止・減少は喫緊の課題であります。当協会では、平成27年秋の交通安全運動における取組みのほか、自治体と連携した高齢者交通事故防止啓発チラシの配布等、啓発活動を行ってまいりました。今後も、こうした活動を着実に進め、交通事故の防止・減少に貢献してまいります。
また、当協会の諮問機関である「お客さまの声・有識者諮問会議」の傘下に設置した作業部会「高齢者タスクフォース」を本年5月からスタートさせ、有識者の方々に、超高齢社会の進行に伴う諸課題や損害保険業界の果たすべき役割について、ご意見を取りまとめていただきました。今回の報告書を踏まえ、超高齢社会において、損害保険業界が本業等を通じて、安心かつ安全な地域社会の形成に寄与できるよう、今後も検討を進めてまいります。
(2)グローバル化への取組み
2015年3月の第3回国連防災世界会議において、当協会のぼうさい探検隊等の取組みに対して高い評価をいただき、経済協力開発機構(OECD)事務局から、2015年9月にマレーシアで開催された災害リスクファイナンスのグローバルセミナーに招かれました。このセミナーでは、当協会が実施している年齢層に応じた教育プログラムの目的・内容・効果について説明を行い、参加者の方々から高い関心を示していただくことができました。
(3)新たなリスクへの取組み
現在、様々な産業において技術革新による新たなサービスが誕生しようとしています。すでに実証実験が進められている自動車の自動運転や介護ロボット等の実用化は、高齢化等、我が国が抱える構造的な諸課題を解決する一助として大いに期待されています。
他方で、こうした新技術の実用化はリスクの形態や質を変容させると考えられ、また、実現に向けては道路等のインフラ整備といった課題もあるため、関係各方面において法的課題や環境整備に向けた議論が本格化しております。当協会では、これまでに行った現行法令との関係に係る論点整理をもとに、有識者の意見を聞きながら、今後も保険実務や判例等の観点から専門的・多角的な検討を進めてまいります。
(4)消費者からの相談・苦情・紛争解決への取組み
消費者からの相談や苦情、紛争解決をサポートする「そんぽADRセンター」の態勢強化として、消費者対応に係るモニタリング等を踏まえた新たな研修プログラムを策定し、相談員への研修を実施しました。今後も、同センターに寄せられる消費者の声の分析や会員各社へのフィードバック等を通じて、損害保険業界全体の業務品質の向上に取り組み、消費者からより一層信頼される業界を目指してまいります。
(5)税制改正要望について
近年、巨大自然災害が頻発している中で、保険会社が確実に保険金をお支払するという社会的責任を全うするため、「火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実」を平成28年度税制改正要望の重点要望項目としておりましたが、12月16日に「平成28年度与党税制改正大綱」が公表され、現行の積立率5%を維持することが採り上げられました。
また、「タックスヘイブン対策税制の見直し」については、英国ロイズマーケットに進出している子会社の事業活動が租税回避目的ではないことから、適用除外基準の見直しが行われることとなりました。
3.おわりに
協会長に就任し半年が経過し、早いもので本年も残すところ、わずかとなりました。就任時に申し上げたとおり、今年度は、消費者の皆さまへ自助・共助の重要性を伝えるため、「自然災害」及び「消費者教育」に関する課題を重点的に取り組んでおります。関係各方面のご協力をいただいたことで、この取組みも着実に進んでおりますが、こうした課題は一朝一夕に達せられるものではありません。そのため、今後も継続して、地域に根差した活動を地道に行っていく必要があると認識しております。
昨今における自然災害の発生状況に見られるよう、我が国を取り巻く環境の不確実性が高まるなか、損害保険業界がこうした活動を通じて、「安心・安全な社会づくり」へ貢献できるよう、その役割を着実に果たしてまいりたいと考えております。
引き続き、皆さまのご支援、ご協力をお願い申し上げます。
以 上