協会長ステートメント
会長 金杉 恭三
2019.09.19
6月末に日本損害保険協会会長に就任以来、これまでの主な取組みにつきまして、ご報告と所感を申し上げます。
はじめに
今年度につきましても、台風や地震などの自然災害により、全国各地で大きな被害が発生しております。とくに、関東地方に直撃する台風としては過去最強クラスとなった台風15号によって、甚大な物的被害が発生し、このため停電、断水、公共交通機関の混乱などが生じ、市民の日常生活に大きな影響を与えております。
これらの自然災害により、お亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、ご遺族および被害を受けられた皆さまに、心からお見舞い申し上げます。
損害保険業界といたしましては、被害に遭われた皆さまからのご相談に親身に対応するとともに、迅速かつ確実に保険金をお支払いするよう取り組んでまいります。
これまでの取組みについて
1.自然災害に対する取組み
日本全国で局地的な大雨や台風による水害、地震など多様な自然災害が発生しており、今後も発生が見込まれる自然災害に備え、それぞれの地域に応じた防災・減災の取組みを加速・浸透させるため、(1)から(3)の取組みを行っております。
(1)自然災害リスクに関する啓発取組み
全国各地で啓発取組みを実施しております。とくに、昨年大きな水害が発生した岡山県や観測史上初の震度7を記録した北海道で開催した防災イベントでは、大規模災害対策における自助・共助・公助の重要性について、啓発を行いました。今後も全支部で自治体や各地域の気象台とも連携し、地域の防災力向上を目指した取組みを行ってまいります。
(2)児童向けの防災教育取組み
小学生向けの安全教育プログラムである「ぼうさい探検隊」については、すでに全国の小学校や子ども会など438の団体から12,689人の児童が参加し、2,274作品が寄せられています。引き続き、応募締切日の11月6日まで、より多くの児童に参加いただけるよう各方面への働きかけを行ってまいります。
また、家庭や学校で子どもが災害から身を守るための動作や日頃の備えを学べる「ぼくとわたしの安全シート」を8月8日に刷新しました。すでに提供している「火事編」「地震編」などの改訂に加え、新たに「大雨・台風編」を追加しております。今後、自治体等と連携した防災イベント等で活用し、子どもの防災知識の向上を図ってまいります。
(3)地震保険の普及に向けた取組み
将来発生が予想される巨大地震に備え、全国各地域で地震保険の普及に向けた取組みを行っております。2018年度のデータによると、火災保険契約に地震保険が付帯されている割合は全国平均で65.2%となっており、前年度より2.2ポイント上昇しました。引き続き、付帯率が低い都道府県を中心に普及取組みを進めてまいります。また、8月26日から新たな地震保険広報を開始しました。本年度は「新しい時代を地震に本気で備える時代へ。」というキャッチコピーのもと、地震リスクや地震保険加入の必要性を強く訴求してまいります。
2.高齢者・外国人向けの取組み
高齢者が当事者となる事故の防止のため、(1)から(3)の取組みを行っております。また、我が国の国際化に伴う訪日外国人旅行者・在留外国人の増加への対応として、(4)の取組みを行っております。
(1)高齢歩行者の交通事故防止に向けた取組み
夜間・夕暮れ時の交通事故から高齢歩行者を守るため、お孫さんと高齢者が一緒に装着できるよう製作した「ピカチュウ反射リストバンド」を活用した取組みを全国各地域で行っております。また、静岡県、札幌市や東京都では地方自治体や都道府県警察と連携し、高齢者や高齢者のご家族が参加できる交通事故防止セミナーを開催しました。今後も全国各地でセミナー等を開催し、事故防止に向けた取組みを進めてまいります。
(2)高齢ドライバーの交通事故防止に向けた取組み
高齢ドライバーが当事者となる事故が増加しており、これを防止するための取組みを行っております。石川県や東京都などにおいては高齢者の事故実態を踏まえた啓発チラシによる注意喚起を行うとともに、安全運転サポート車、いわゆるサポカーの試乗イベントを開催しました。引き続き、高齢ドライバーを対象に安全運転に関する啓発や先進技術に関する正しい知識の習得に向け、イベント開催等の取組みを行ってまいります。
(3)交差点での交通事故防止に向けた取組み
交差点や交差点付近で発生する交通事故の防止・削減のため、全国地方新聞社連合会および警察庁にご協力いただき、当協会ホームページにて公表している「全国事故多発交差点マップ」について、本日、最新の内容に更新しました。このコンテンツは、高齢者の事故防止にも資する内容となっており、全国各地域での事故防止取組みにおいて活用してまいります。
(4)外国人向けの取組み
我が国社会の国際化の進展、とりわけ訪日外国人旅行者の増加への対応として、万が一の災害時にも訪日外国人旅行者や在留外国人の皆さまが安心・安全に滞在できる環境を整備するため、9月6日に災害時の訪日外国人旅行者・在留外国人向け情報提供サイト「Information on Staying Safe in Japan」を当協会ホームページにリリースしました。このサイトはスマートフォンや5ヶ国語に対応しており、日本国内で災害や事故などに遭遇した時に有用と考えられる様々な外国人向けの情報を一元化した「まとめサイト」となっております。
また、このサイトをより多くの方に利用していただくため、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会と連携し、全国約16,000の宿泊施設にQRコード付きのチラシを提供しました。また、ラグビーワールドカップが開催される12都道府県における宿泊施設(208施設)を対象として、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会と共同で制作した「うちわ」と、名刺サイズの情報カードを配布しました。引き続き、災害時における外国人の皆さまの安心・安全に資する取組みに注力してまいります。
3.各種課題への取組み
(1)サイバーリスクに関する取組み
サイバーリスクの実態やサイバー保険の有効性についての認識を深めていただけるチラシ「サイバー保険の話。」を7月31日にリリースしました。国内企業の7社に1社がサイバー攻撃を受けている状況、その対策、サイバー保険の取扱会社などを紹介しております。また、当協会ホームページの「サイバー保険特設サイト」について、サイバー攻撃が企業に与える影響など各種コンテンツを追加してリニューアルしました。今後は、地方自治体、都道府県警察、商工会議所等と連携してサイバーリスクの啓発活動やサイバー保険の普及に努めてまいります。
(2)火災保険等に係る保険金支払原資の充実に向けた取組み
7月25日開催の当協会理事会において、「令和2年度税制改正要望」を決議しました。本年度は、頻発する巨大自然災害に備え、火災保険等に係る異常危険準備金制度の一層の充実など真に必要な8項目に絞っており、要望の実現に向けて関係各方面に対して働きかけを行ってまいります。
(3)国際基準などに関する取組み
保険監督者国際機構(IAIS)の「保険基本原則(ICP)」と、「国際的に活動する保険グループ(IAIGs)の監督のための共通の枠組み(ComFrame)」に関する市中協議(パブリックコメント)に対応し、公平な競争条件の確保や過度な制約の回避等の観点から、8月14日に意見表明を行いました。これらの国際基準は本年11月に採択される予定となっており、その後、予想される我が国におけるルール整備に向けた検討において、適時適切な意見表明を行ってまいります。
(4)アジア各国・地域の損害保険市場に関する取組み
アジア各国・地域の損害保険事業の健全な発展への貢献を目的として、1993年から開催している日本国際保険学校(ISJ)海外セミナーを、9月10日から11日までタイ(バンコク)において開催しました。本年度は「より良いサービスを、信頼を得て持続的に提供するために」をテーマとして、業界として取り組むことの必要性や有用性などについて講義を行いました。引き続き、アジアを中心とする諸外国・地域の損害保険業界へ保険技術協力を行ってまいります。
おわりに
就任から約3か月の間、本年度掲げた「自然災害に対する取組み」と「高齢者・外国人向けの取組み」の2つの重点課題を中心に取り組んでまいりました。
この間、私自身が参加した岡山と北海道のイベントでは、各地域の防災意識が向上していることを感じるとともに、自助・共助・公助という3つの取組みを組み合わせることや各地域の実情に即した防災・減災に取り組むことの重要性を再認識いたしました。
さらに、地方自治体、マスコミ関係者など多方面の方からお話を伺うにつれて、とりわけ地方においては、高齢者自身が生活のために「移動の足」を確保し、乗用車を運転しなければならないのが実態であり、高齢者ドライバー向けの交通事故防止取組みの必要性が益々高まっていると強く感じました。
他方、いよいよ明日、ラグビーワールドカップが開幕します。東京オリンピック・パラリンピック競技大会についても残り1年を切りました。急速に進む我が国の国際化への対応についても、従来にも増してスピード感を持って取り組む必要があると考えております。
このように、就任時に設定した2つの重点課題は、我が国の社会や経済にとって、優先して対応すべき重要事項であり、損害保険業界の貢献が必要不可欠であることを一層確信しております。
前述のとおり、各課題への取組みは、計画どおり進捗しておりますが、今後も着実に2つの重点課題に関する取組みを進め、我が国の「安心かつ安全で持続可能な社会の実現」と「経済および国民生活の安定と向上」に貢献してまいります。
引き続き、皆さまのご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。
以 上