講師のブレイクタイム
全国の大学で講義している講師が日々思ったことをつづっています。
過去記事
金融リテラシーと損害保険(2018年3月23日(金))
金融庁、日本銀行金融広報中央委員会、そして各金融業界団体は、互いに連携しながら、消費者が金融商品を適切に利用選択する知識・判断力を身に付けること(これを「金融リテラシー」といいます。)を目指して、様々な取り組みを行っています。その一環として、全国の10大学で金融リテラシー向上のための連携講座が実施されています。この連携講座は行政と各金融業界団体が講師を派遣し、半期、全15コマの授業構成で、単位取得の対象にもなっています。
この連携講座を実施する理由は、金融リテラシー教育のタイミングとしてフィットし、効率的に身に着けることができるということのようです。損保協会がこれまで大学の損害保険講座の推進を行ってきた理由も、社会人予備軍としての大学生は、リスクとその対処方法を学んでもらう絶好のライフステージであると捉えているからです。
ここで損害保険を教える講師として、私は悩みます。すなわち、一般の金融商品と損害保険商品を同列に扱って良いものかどうかということです。金融リテラシーが想定している金融商品は、主として資産形成を目的にしたものです。そうすると損害保険商品は資産形成ではなく資産保全が目的ですから、一般の金融商品とは異なることを説明する必要があります。
では、損害保険は資産形成とはまったく関係がないのでしょうか。違うと思います。資産形成の実現を阻害するような災害が発生しても、その影響を最小限に食い止め、生活再建の資金確保の一助となるのが損害保険の役割です。換言すれば、資産形成は資産保全策があって初めて実現するものだということです。この金融リテラシーの連携講座では、金融商品を幅広く学ぶため、学生にまず損害保険の役割を理解してもらい、一般の金融商品と混同しないよう注意喚起しています。
がんを学ぶこと(2018年3月23日(金))
大学の講義のなかでリスクについて説明するときに、人口動態統計の話をすることがあります。人口動態統計とは、例えば、1年間に何名の赤ちゃんが産まれ、何名の方が亡くなっているのか、亡くなった原因は何か、これから日本の人口はどのような推移をたどるのかなどを表したもので、厚生労働省が発表しています。 こうした人口動態を学生に身近に感じてもらうためには、「死」を取り上げることで大きなインパクトを与えることに繋がります。
日本人の死因のトップは「がん」であることは中高年の方にはよく知られていると思います。直近では死因のおよそ30%が「がん」で、もう40年近く不動のトップです。日本は先進国では突出して「がん」による死亡率が高く、「がん大国」とも言われています。がん対策はまさに喫緊の課題で、専用の法律も作られています。
「がん」は簡単にいうと細胞の劣化によって起こりますから、年をとればとるほどがんになる確率は上がり、日本では一生の間にがんになる確率は男性が3人に2人、女性は2人に1人といわれています。したがって、長生きをすればいつかがんを患うという認識が必要ですが、若い人にはピンとこないのが実態ではないかと思います。
実は、人口動態統計から年齢層別の主な死因を調べてみると、女性は30代になると「がん」による死亡が50%弱(およそ2人に1人)に跳ね上がり、40代、50代、60代、70代で60%~70%で推移します。つまり、女性のとっては「がん」は若いうちから身近で深刻な病気(リスク)だということがわかります。しかしこうした事実をどのくらいの人が知っているでしょうか。大学の講義では、こうした事実とがん検診の重要性を繰り返し強調しています。
「がん」を教育することが文部科学省作成の次期学習指導要領にも明記されたようです。リスクが分からなければ、その備えも出来ません。「がん」も自然災害もリスクという点ではまったく同じで、まずリスクを学ぶところから始まります。
今年の講座・講演を振り返りながら(2016年12月29日(木))
2016年もまもなく終わろうとしています。今年も全国で大きな災害が起こりました。特に自然災害は日本の国土の特徴が災いして、決して避けることのできない必定の災害で、そのことを私たちは常に意識して生きていかなければなりません。そんなことをこの1年間、保険の話も絡めながら多くの大学生や消費者、そして消費生活相談員の方々に話をしてきました。講演回数は137回にも及びました。
そのなかで、先日、私が住んでいる地元(さいたま市)の自治会の懇話会で「自然災害に備える」というテーマで講演する機会がありました。日曜日にも関わらず、40名ほどの方々が集まりました。また、市の広報の方も参加されました。
私の住んでいる地域は大宮台地の端にあたり、海抜は比較的高いところに位置しています。講演のあとの質疑応答では、二つの質問と意見がありました。一つは、この地域は洪水のおそれはないのかというもの。もう一つは大地震が起こった時には冷静な判断や行動ができないのではないかというものでした。前者については、洪水ハザードマップから考えれば可能性は低いと答えました。後者については、難しいご指摘でしたが、いざという時の対処方法を知らないからパニクって判断と行動を誤ることが多いので、普段から避難訓練などが必要であることを付言しました。地域のこうした意識の共有は、共助を支える大きな力になると思います。
東日本大震災5年で思うこと(2016年3月17日(木))
損保協会では、3月8日に、『東日本大震災5年「もっと、防災」、これからの社会を担う大学生を対象に防災・減災意識の高揚を図る』というシンポジウムを東京で開催しました。当日はいろいろな分野の大学の先生方のご協力もあって、春休みという時期にも関わらず会場があふれるほどの大学生に参加いただきました。参加した大学生は、実際に被災地で災害ボランティアを経験したり、今後の震災に対して何ができるのかを考え地域で災害に備えた活動をしていたり、あるいは今は何もしていないものの、来るべき大地震に備えて何をしなければならないのかを思案したりと、いろいろな思いを持って来られたと思います。若い人たちのこうした意識や関心がこれからの防災・減災の取組みを行う際の強力な後ろ盾になるはずです。
この震災についての受け止め方は人によってさまざまです。被災した方とそうでない 方ではもちろん違いがありますが、やはり震災の恐ろしさや悲しみを可能な限り国民レベルで共有していかないと、次の大地震への備えが十分にはできないのではないかと思います。日本はいつでも、全国どこでも大地震が起こっておかしくない地震大国です。地震が多いのは4つのプレート(地球の表面を覆う岩石層)が複雑に絡み合っているからで、この現象は火山の噴火も引き起こします。そして津波は地震だけでなく噴火でも起こります。これまで被災しなかった方はたまたまそうだっただけです。
大学講座の講師を担当する者として、このコラムでは幾度となく自然災害等のリスクの話をしてきましたが、またここで一つ申し上げたいと思います。 例年この時期になると思い起こすことがあります。それはある大学の先生から伺った話ですが、東日本大震災で亡くなった大学生のことです。卒業旅行でたまたま東北を訪れた3人の大学生が仙台空港で被災しました。私たちは旅行先、仕事先で被災することもありえます。この点でも震災は他人事ではない、身近なものなのです。震災の教訓を皆が共有して自分事として関心を持ち続けることが来るべき大地震の被害を減らす大きな力になります。
交通事故は減った!?(2016年1月5日(火))
大学の講座のなかで大学生に対して、世の中にはいろいろなリスクがあり、日々それらのリスクにさらされていることを説明しています。そのなかでも、交通事故に遭遇するかもしれないリスクはいちばん身近で、発生確率の高いリスクの一つです。交通事故の実情を理解することは、交通事故を予防するための第一歩だと言えます。
ところで、交通事故は年々減少傾向にあると言われています。警察庁が公表している人身事故の件数は確かに減少していますが、一方で自賠責保険の年間の保険金支払件数は直近でも116万件あり、1日平均では何と3,200件になります。交通事故が減っていると言っても膨大な数の人身事故が発生していることがわかります。また、物損事故については、損保料率機構の統計があり、それによれば年間の保険金支払件数は470万件にのぼり、1日平均では13,000件という数字になります。
こうしたデータを見ると、交通事故の危険性は減少したと考えるのは早計ではないかと思っています。交通事故の件数は減少したとはいえ相変わらず多いという認識を持つことが交通事故に備えるためには重要です。
新年を迎えて交通安全を祈願します。
地震保険の普及は営利目的ではない(2015年10月7日(水))
先月はじめ、金融庁、東京都消費生活総合センター、金融広報中央委員会、そして各金融業界団体が主催して、消費者向けのセミナーを開催し、私は「知ってもらいたい保険の知識」として地震保険を解説しました。参加者は50名ほどで、年配の方が多かったです。話の途中で参加者の方に挙手をお願いしました。問いかけは「地震保険が民間保険会社と政府の共同で運営されていることを初めて知ったという方は手を挙げてください」でした。結果、なんと7割近くの方が手を挙げました。驚きと、一方ではやっぱりという思いが交錯し、消費者感覚をまざまざと突き付けられた瞬間でした。
先月の終わりに開催された石川県の消費生活センター主催の消費者セミナーでも講師を務めましたが、まったく同様の結果でした。
地震保険の普及は業界にとっても、国にとっても大きなミッションなので、これまでもマスメディアを使った周知広告をはじめ、さまざまな啓発活動を行ってきました。しかし、こうした消費者感覚が相変わらずあるということをしっかりと認識しながら、これからもいろいろな機会を利用して、地震保険制度への理解を促していかなければならないと強く思いました。
損害保険には保険会社が営利目的で販売しているわけではない保険がいくつかあります。地震保険もその一つです。
損害保険に興味を持ってもらうには…(2015年6月5日(金))
新学期を迎えて2か月が過ぎました。損保協会が全国のいくつかの大学で実施している「損害保険論」や「損害保険の実務と法」という連続講座の受講者も、損害保険について、いろいろな思いをもつようになる時期です。せっかくリスクや保険を学んでもらっているので、まずは、何かインパクトのあることをお話ししたいと思います。例えば、損害保険が日常生活や経済活動のなかでどのように利用されているのかをいくつかの例を取り上げて紹介するつもりです。
先日、一橋大学法学部の連続講座で、ある学生から次のような感想が寄せられました。
「損害保険は保険加入者の損害や賠償額を補償することで、(中略)被害者の救済に資する面があり、生活や事業をする上で必ず付きまとうリスクを軽減でき、私達が安心して生活することができるのだと改めて考えさせられました。」
講師の思いが伝わったことにほっとすると同時に、この学生の好奇心をさらに広げて、いろいろなリスクや保険について、より一層興味を持って欲しいと願いました。もともと損害保険は複雑であるし、一般的な学生にはなかなか馴染みのあるものではありません。そんな損害保険を大学の授業のなかで連続して学べることが世の中のいろいろな仕組みを知る一助になればうれしいと思います。
大地震のリスクを学生にどう伝えるか(2015年3月10日(火))
東日本大震災から4年が経過します。
大学の授業でも、地震保険との関係で東日本大震災を取り上げることが多々あります。学生が建物や家財に保険を付けることは一般的ではないので、地震保険は馴染みにくいものです。けれども、地震発生のメカニズムや過去の大地震・津波の被害状況、さらに普段からの地震への備えの話をすると、多くの学生がとても興味を示します。
リスク教育の大切さはこのコラムでたびたび触れてきましたが、世の中のいろいろなリスクの説明をしても、学生は知らないことが多く、特に、自然災害全般に関するリスク認識が十分ではないように感じます。小学生や中学生のときから繰り返し「命を守る教育」を推進することが必要だと、いつも思っています。
損害保険はいろいろなリスクを前提に、そのリスクが発生した場合の損失を補償します。保険を理解する前に、リスクを理解することが必要です。学生に世の中のリスクを理解してもらうためには、自然災害のリスクであれば、地形や地盤、海抜などの情報の重要さ、あるいは日本の国土の特徴を知ってもらうところから始まります。リスクを理解すれば、リスクを多少なりとも減らすことができます。それでも経済的な損失は発生します。それに備えるのが損害保険です。
地震保険が法律に基づき政府と損保会社が共同で運営し、保険金を迅速に支払う工夫がされているといった地震保険の際立った特徴も、地震リスクから説明すると理解しやすいのかもしれません。
大阪大学連続講座の期末試験を担当して(2015年2月17日(火))
国立大学の学部授業の期末試験が終わろうとしている時期です。学生は単位取得が気になりますが、教える側は連続講座の成果を試験で検証します。学生が「何を理解していないのか」の傾向もわかります。
大阪大学法学部で「損害保険の実務と法」という連続講座を損保協会が実施しています。
保険は法律との関わりが深く、保険固有の法律もいくつかあります。実務と法律の関係を勉強するには格好のテーマです。私は4つの講義と試験問題のうちの論述問題を担当しました。論述問題の配点ウエイトが高く、私の採点が合否を大きく左右します。
さて、採点結果はどうだったか…。具体的な試験問題の内容は差し控えますが、試験問題のヒントを講義の中で触れたこともあり、学生はおおむね理解して解答していたように思いますが、間違った理解や肝心のポイントに触れていない解答も一部ありました。
教えるということはコミュニケーションをとることで、学ぶ側と教える側の双方が理解し合うことが大切です。解答を採点しながら、「教え方や資料の作り方にもうひと工夫必要だなあ」と思うことがいくつかありました。
大阪大学では、講義の都度、簡単な感想や質問を書いてもらうようにしています。最後の講義では、講座全体の感想を述べた学生が多くいました。「損害保険の幅の広さと奥行きの深さを学んだ」という感想が何人かの学生から寄せられ、「そう、それを伝えたかった!」とうれしく思いました。
金沢大学で「リスク」の語源を問う(2014年12月26日(金))
アメリカの偉大な経営学者ピーター・F・ドラッカーの著書「現代の経営」(上田惇生訳、ダイヤモンド社刊)に、「リスク」の語源は<アラビア語の「今日の糧を稼ぐ」である>とあります。だとすれば、「リスク」を「危険」というマイナスのイメージだけで捉えるのは、本来の意味から離れた狭い見方になります。
「リスク」には、その先にプラスの領域があり、それに向かってチャレンジする意味が込められているからこそ、「今日の糧」が重要になります。昨年の流行語大賞の「いつやるか?今でしょう!」に相通ずるものです。「明日やる」ではチャレンジになりません。
こうした話を金沢大学でのリスクマネジメントの講義(11月26日)で披露しました。講義終了後の学生の感想を読むと、リスクの本質を考えるきっかけになったように思います。
リスクを完璧に排除することは不可能であり、リスクと付き合っていくという考え方が必要です。リスクマネジメントの理念は、ある時にはリスクを受け入れ、ある時にはリスクを回避し、ある時にはリスクを軽減して、持続的な発展につなげていくことにあります。そのために、まず、どのようなリスクがあるのか、そして、そのリスクの性質はどのようなものなのかを見極めることが求められるのです。
交通事故にしても、自然災害にしても、病気にしても、あるいは老いにしても、「私たちはこれらのリスクをどこまで理解しているのか」を考えてもらうきっかけになる講義をこれからも行っていきたいと思います。
損害保険教育の前提としてのリスク教育(2014年11月20日(木))
損害保険の講義では、損害保険が補償の対象としている「リスク」の教育が不可欠になります。自動車保険であれば交通事故、住まいの保険であれば火災や地震などの自然災害といったリスクがあります。
学生は、概して、自分たちがさらされているリスクについて、じっくり考えたことがありません。いろいろなリスクの説明をすると、とても興味を持ちます。自然災害を引き起こす地震や集中豪雨のメカニズムをはじめ、地形、地盤、海抜との関係、日本の国土の特徴などの説明は、防災・減災教育にもつながるものです。損害保険の講義で教えるリスク教育は、ほんの入口の部分にすぎませんが、リスクについて学生自らが考える端緒になればよいと思っています。
9月の最終週に東北大学で1週間の集中講座を担当しました。
ある学生から「今回の授業で、日本の災害リスクの高さを再認識した。東北地方の今後の復興を考えるきっかけになった」という感想が寄せられました。社会人になっても、こういった問題意識を持って活躍してくれることを期待しています。
名古屋大学で法律と保険の橋渡し(2014年10月8日(水))
9月の第3週に名古屋大学法学部の集中講義を担当しました。
保険は、いろいろな法律とかかわりがあり、「保険法」「保険業法」といった保険固有の法律をはじめ、保険に言及している法律が結構あります。保険を取っつきにくくしている面がある一方、学術的には興味深いテーマが多く、研究者の先生方がさまざまな観点から論文を書いています。
保険の実務家が法学部で講義をするということには、法律の世界と実務の世界との橋渡しをするという大きな役割があります。「なぜ、保険固有の法律があるのか」「実務が法律をベースにどのようにワークしているのか」「法律の限界を実務がどのように補っているのか」といった実務家講師が真骨頂を発揮する場面が多々あります。
学生は、法律の周辺の諸事情に興味を持っています。例えば、苦情や紛争を解決するためのADR(裁判外紛争解決手続)という仕組みについては、「裁判制度との違いは何か」「どのような苦情が多いのか」「解決率はどのくらいか」「課題は何か」といった話が、特に法学部の学生には相当なインパクトを与えたようです。ADRの枠組みは法律で定められていますが、運用はまさしく実務の世界の話です。迅速で柔軟な対応が求められる現場の話が、とても新鮮に映ったのだと思います。
講座を担当していて悩ましいことの一つに、試験問題の作成があります。採点が簡便な択一問題を中心にしがちですが、試験終了後、ある学生から「論述の問題を多くしてほしかった」と言われ、意外に思いました。「択一問題は採点者の裁量の余地がないので不安」というのが理由でした。また、択一問題の難易度を低くしたつもりでも、思っていたより点数が伸びないことも多く、悩みは尽きません。
広島大学の集中講座で思ったこと(2014年9月19日(金))
夏休み中の大学も多いようですが、この休み中に、多くの大学で「集中講座」という1週間で2単位を取得できる講座が実施されます。9月の第1週は広島大学経済学部で「保険論」を担当しました。45名の受講生が毎日10時半から16時すぎまで1日3つ、合計15回の講義を熱心に聴いてくれました。
多くの学生にとって、保険は馴染みのあるものではありません。最初は取っつきにくかったようですが、講義を何回か続けるうちに、少しずつ変化が見られました。保険の仕組みや役割が分かってくると、自分と保険との距離が縮まり、安心感が生まれます。そうすると保険に対する興味がわいてきて、理解が進みます。全講義の終了時に書いてもらった感想から、講義を通じた学生の意識の変化が読み取れて、うれしくなりました。
5日間の講義で保険のすべてを理解してもらうことはできません。あくまで保険の取っ掛かりを教えることに終始しますが、学生自身がその取っ掛かりを習得できれば、講義の目的は達成できたのではないかと思っています。
保険に限らず、少しでも親近感や馴染みを持つことが、いろいろな興味、関心を呼び起こします。今回、契約の「更新」と「更改」の違いや、生命保険の年齢別保険料の考え方について、熱心に質問をする学生がいました。これからも、その関心や問題意識を糧にして、知識の幅を広げていってほしいと思います。「頑張れ!」
大学生に身近な海外旅行保険(2014年7月29日(火))
成城大学経済学部で「保険論」を担当して11年になります。毎年、講義の1回目で、保険や保険会社、身近なリスクをどのように受け止めているのかアンケートを行っています。
アンケートの回答者の6~7割が海外旅行を経験しており、そのうちの7割が何回も海外旅行に行っていることに驚きます。海外旅行経験者の中には、旅行先で盗難に遭ったり、病気になったりした学生が数人おり、保険金の支払を受けた学生もいました。全国の大学生の平均とまではいえないにしても、今の大学生にとって、海外旅行は身近なものになっており、海外旅行保険にも関心が高いことがわかります。
海外旅行保険は、損害保険の特徴が如実に表れたものです。海外旅行に伴うさまざまなリスクを網羅的に補償する、損害保険ならではの商品設計になっています。旅行先でのけがや病気による治療費などの出費、携行品の盗難や損壊、ホテルへの損害賠償責任、航空機の遅延による出費、家族の現地への駆けつけ費用など、さまざまな補償項目があり、面倒見がよい分、複雑な商品といえます。
海外旅行に伴ういろいろなリスクを認識し、リスクに備えて自ら保険に加入するという判断と行動は、リスク管理の第一歩です。リスク対応を教える講師としても、学生の後押しをしなければいけないと思います。外務省もホームページで海外旅行保険の加入を推奨しています。
夏休みを迎え、旅行先で事故が起こらないことを祈りながら、海外へ気をつけて「いってらっしゃい」。
一橋大学で「ADR」を解説(2014年7月15日(火))
一橋大学法学部で「損害保険の法と実務」という寄附講座を2010年度から損保協会が行っています。15回の講義うちの4回を担当しており、「保険業法」の講義の中で「ADR(裁判外紛争解決手続)」という制度を解説しています。
10年ほど前にオーストラリアのADRを視察した経験を踏まえ、講義ではオーストラリアの金融分野のADRについても触れています。もともとオーストラリアはADRのマネジメントステムが発達しており、ADRの専門家も多く、大学でADR関係の修士を取得した人たちが少なからず実際のADRの現場に勤務しています。
ADRという仕組みの認知度が低いこともあり、とてもインパクトが大きかったようです。「ADRは初耳。もっと学びたい」「大学で訴訟制度を学ぶ機会はあっても、ADRを学ぶ機会が少ない」「オーストラリアと日本のADRの違いや背景をもっと知りたい」「ADRという分野は実務と学問のコラボレートが顕著で面白い。まさに実学講座にふさわしいテーマだ」といった感想が寄せられました。
聴講者の中に、将来、ADRの専門家を目指す人が現れて、新たなパイオニアが誕生したらいいなと淡い期待を持ちました。損保協会のADRの活動状況はホームページでご覧になれます。
信州で「質問の嵐」(2014年7月1日(火))
信州大学経済学部で産業論特論「リスク社会への備え~保険と社会保障を中心として~」の一コマを頂戴して、「損害保険とリスク管理」についてお話ししました。その模様は大学のホームページで紹介されています。
学生に一般の市民の方々も加わった200名を超える聴講者が熱心に聞き入ってくれました。驚いたのは、講演 後、たくさんの手があがり、質疑応答に30分あまりを費やしたことです。
講義で、東日本大震災で支払われた1兆2千億円あまりの地震保険金のうちの1兆円は震災発生後約3か月で 支払われたという話をしたところ、「その理由や工夫は何か?」という質問がありました。
また、保険金詐欺等のいわゆるモラルリスクについて、「業界としてどのような取組みをしているのか?」といった質問が次々と寄せられました。
答えに窮するものもありましたが、関心の高さにびっくりしたのと同時に、こうした学生の皆さんの問題意識が めぐりまわって業界の発展を後押ししてくれるのではないかと思いました。
「明倫館」に思う(2014年6月19日(木))
全国の大学で「リスク」や「損害保険」について講義をしています。大学の先生方とのお付き合いも多く、ゼミの学生との交流もあります。
各大学のゼミ生が集まって研究成果を報告し、意見交換する催しもよく行われています。保険関係でも、いくつかあるようですが、「RISK & INSURANCE Seminar」(RIS)という、関東、関西、中国・九州エリアの20を超える大学が参加する大規模な集まりがあります。私も実務家としてときどき拝聴しています。担当の先生方のご苦労もあり、熱の入った報告が多く、大変、勉強になります。
ところで、2012年のRISの全国大会では「損害保険を学ぶ意義」というテーマで基調講演させていただきました。会場が山口大学だったこともあり、長州藩の藩校「明倫館」が幕末にその規模をどんどん拡大していったという話をしました。この時代の財政事情を考えれば驚くべきことです。学問や知識の習得が時代認識と判断力を生み、現実の行動に体現される、まさにその原動力となるのが学問の場であることを強く感じました。いつの時代も、学問や知識の習得が新たな時代を切り拓いていきます。
来年のNHKの大河ドラマの舞台が幕末の長州藩だと聞いて、その時のことを思い出しました。