IAIS保険セクター気候変動リスク文書案に意見提出
2018.05.11
市中協議で民間保険会社の意見考慮を要望
日本損害保険協会(会長:原 典之)では、保険監督者国際機構(IAIS)(※1)が公表した「保険セクターに対する気候変動リスクに係るイシューズ・ペーパー(※2)案」に対する意見を4月27日(金)に提出しました。
本文書は、気候変動が作り出す問題について保険者と監督者の認識を高めることを目的に、主に次の内容をまとめたもので、3月30日(金)から4月29日(日)まで市中協議(パブリック・コメント)に付されました。
<文書の主な内容>
- 気候変動が保険セクターに及ぼす影響。
- 具体化されているリスク事例や、保険引受・投資活動全般に対する影響の事例と、それらに対する保険監督者のアプローチの状況や今後の見通し。
- 潜在的な気候変動にかかる保険監督者が検討すべき事項や、他国の保険監督者の管轄区域に属する保険者に対する観察(アプローチ)の事例。
- 効果的な監督手法の実現に向けたギャップ分析や新たな監督領域の特定。
- 上記事例に基づく考察と、保険セクターに対する気候変動リスクに係る監督の黎明期における考察。
当協会では、本文書の目的に賛同しつつ、今後の検討にあたっては、民間保険会社の意見を十分に考慮するなど、丁寧な議論が行われるよう要望しました。
<当協会意見概要>
- 本文書の目的である、保険会社や監督者の気候変動に対する認識を高めることに賛成。
- 他方、本文書の確定等にあたっては、各国の金融・保険市場の特性、地理的環境等を十分に考慮すべき。また、実際の規制・監督対象となる可能性のある民間保険会社の意見を十分に考慮すべき。
- 本文書が意図せざる影響を生みださないよう配慮すべき。たとえば、市場や実体経済との相互作用や経済活動全体への影響、他業界の検討内容との整合性等の大局的な観点から、慎重な議論が必要。
- TCFD提言(※3)は「情報開示の指針」であり、必ずしも化石燃料エネルギー関連企業に対する投融資や保険引受に関する情報を、一律に開示することを求めているものではないことに留意するべき。
- 気候変動のシステミックリスクとしての言及について、保険会社にとっては毎年の引受条件の見直し、及び再保険等の活用により、リスク管理を行使出来ることから、現状では直ちにシステミックリスクへ直結するものではないと理解している。また、リスクの種類や波及経路を具体的に示さないまま、システミックリスクとして言及するのは時期尚早である。今後気候変動をシステミックリスクとして言及する際には、論拠を正確に示す、その参照事項を明記する等、丁寧な議論が行われることを期待する。
- 「高炭素資産リスク」との用語について、定義が曖昧なままに係る資産の把握手法につき、特定の指数を推奨しているかのような表現を用いることは誤解を招く恐れがある。
IAISは、今回の市中協議に寄せられた意見を参考に検討を進め、2018年7月までに本文書の完成を予定しています。
当協会は、IAISにおける国際保険監督基準策定の議論に積極的に参加しており、今後も関係国際機関等に対して本邦業界の意見を表明していきます。
(※1)保険監督者国際機構(IAIS)の概要
1994年に設立され、世界約150カ国・地域の保険監督当局(メンバー)で構成。主な活動は以下のとおり。
1)保険監督当局間の協力の促進
2)保険監督・規制に関する国際基準の策定および導入促進
3)メンバー国への教育訓練の実施
4)金融セクターの他業種の規制者等との協力
※日本からはメンバーとして金融庁が参加しており、当協会もステークホルダーとして積極的に関与する方針を掲げている。
(※2)イシューズ・ペーパー
IAISが作成する文書の一類型。扱うトピックの背景や現在行われている取組み、ケーススタディ等を提供し、規制・監督上の論点・課題を特定することを意図としている。説明を提供することが目的であり、監督者がその内容を実施することは期待されていない。ただし、基準策定に向けた準備として作成されることが多く、IAISによる今後の作業に関する推奨を含む場合がある。
(※3)TCFD提言
TCFDは、投資家や貸し手等が重要な気候変動関連リスクを理解する上で有用となる、任意かつ一貫性のある開示の枠組みを策定することを目的として、FSB(金融安定理事会)が2015年12月に設置した民間主導のタスクフォース。2017年7月に、気候変動関連財務情報の任意の開示の枠組みに関する最終報告書(Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosure)を公表した。