協会長ステートメント(2016年6月9日)
会長 鈴木 久仁
2016.06.09
日本損害保険協会会長として、この1年間の主な取組みや出来事を振り返り、ご報告と所感を申し上げます。
1.はじめに
この4月に、熊本県熊本地方において、震度7の大地震が連続して発生し、その後も地震活動の活発な状況が続いたことにより、熊本県・大分県を中心に甚大な被害が生じました。この地震災害によって、亡くなられた方々とそのご遺族に対し、深く哀悼の意を表しますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。
協会長として、震災直後に被災地を訪問した際、甚大な被害の状況を目の当たりにし、自然災害の脅威を改めて認識するとともに、一刻も早く地震保険金をお客さまへお届けしなければならないと強く思い、今般の地震災害への対応に取り組んでまいりました。
当協会といたしましては、被災者の生活再建のお役に立てるよう、一日も早い地震保険金のお支払いに向けて、引き続き全力を尽くしてまいります。
2.平成28年(2016年)熊本地震への対応について
当協会では、情報を一元化し、地震保険金の迅速・的確・公平な支払いに向けた意思決定を速やかに行うため、協会本部に東日本大震災以来2度目となる「地震保険中央対策本部」、福岡の九州支部に「現地対策本部」、加えて熊本には「現地拠点」を設置し、会員各社が一致団結し取り組んでおります。
(1)地震保険金のお支払い状況
6月6日時点で、お客さまからご連絡をいただいた受付件数は、217,625件、このうち、すでに地震保険金をお支払いするなど解決した件数と保険金は、186,400件、2,724億円に至っております。これは、阪神・淡路大震災における支払い件数・支払額を大きく上回り、史上2番目の支払い規模となっております。
(2)具体的な取組み状況
当協会では、金融庁や九州財務局をはじめとした関係各省庁や地域行政機関、マスメディア等、あらゆる関係者の皆さまのご理解・ご支援のもと、以下の4つの取組みを柱として対応してまいりました。
ア.相談対応
東日本大震災の経験を踏まえ、震災発生後、熊本県の地域行政機関等を速やかに訪問し、各機関のご理解とご支援のもと、損害保険会社の相談窓口や、損害保険会社との保険契約に関する手掛かりを失った方の照会を受け付ける「自然災害損保契約照会センター」の連絡先を記載したポスター、リーフレットを指定避難所等において掲示、配布してまいりました。こうした被災者への情報提供機会の充実を通じて、お客さまのもとへ地震保険金を迅速にお支払いできるよう努めております。
イ.損害調査対応
迅速な保険金支払いに向けては、被害物件の立会い調査体制の強化が必要となるため、会員各社は災害対策本部の設置や鑑定人等の調査要員の派遣、専門組織の立ち上げなど、業界全体で数千人規模の特別態勢を構築し、対応を行ってまいりました。また、迅速な保険金支払いの観点から、一定の条件の下で、お客さまの損害状況の自己申告に基づく損害調査(書面による調査)や、地震保険金請求書類のご提出の一部省略などのお取扱いを実施しております。
ウ.特別措置
会員各社では、今般の地震において災害救助法が適用された地域で被害を受けられた場合、自動車保険や火災保険等の継続契約手続きや保険料の払い込みを最長6か月間(2016年10月末日まで)猶予するなどの特別措置を、震災直後に決定し、実施しております。
エ.情報発信
当協会の対応・取組みについては、協会ホームページで積極的に公表しているほか、今般の地震災害による地震保険への関心の高まりを受け、地震保険の補償内容や災害時におけるお支払い手続き等について、理解を深めていただけるよう、各種マスメディアを通じて情報発信を行っております。
(3)これまでの振り返り
震災発生後2ヶ月弱で、事故受付件数の86%まで対応を完了することができました。その背景として、会員各社が事故受付から支払いまでの一連の流れに、東日本大震災の経験を活かしている点が挙げられます。また、損害保険業界の社員・損害保険代理店の一人ひとりが、保険金を一日も早くお支払いし、国民生活の安定に寄与するという、損害保険業の使命を改めて自覚し、懸命に取り組み続けた結果であるとも認識しております。
当協会といたしましては、お客さまに当業界に対する信頼を一層高めていただけるよう、引き続き全力で取り組んでまいります。
3.2015年度の取組み総括について
(1)重点取組み
ア.消費者向け啓発・教育活動の推進
当協会では、自助・共助の重要性をより効果的に伝えるため、世代別の消費者向け啓発・教育活動を行ってまいりました。
小学生向けには、防災教育プログラムである「ぼうさい探検隊」を推進し、内閣府(防災担当)や文部科学省、日本損害保険代理業協会のご協力等もあり、「ぼうさい探検隊マップコンクール」へ過去最多となる588団体から、2,506マップをご応募いただきました。また、第2回レジリエンス・アワードにおいては、本プログラムの意義・効果を評価され、最優秀レジリエンス賞を受賞いたしました。
高校生・大学生向けには、社会生活におけるリスクの存在と損害保険の有用性についての理解を深めていただくため、連続講座等の各種講座を計413回実施してまいりました。一般消費者や高齢者向けにも、損害保険を自立的に検討・加入いただけることを目的とした情報ツールとして、「ほっと安心ガイド」を作成したほか、世代別に適した講座を全国各地で計181回実施してまいりました。
また、当協会における初めての試みとして、大学生向けに、東日本大震災5年シンポジウムを2016年3月8日に開催し、若い世代に防災・減災の重要性を改めて認識していただく機会を提供いたしました。本シンポジウムの参加者の中には、防災や減災の活動に参画したいと希望する大学生も多く、今後は、ぼうさい探検隊リーダー養成講座等を通じて、若い世代に地域防災やボランティア活動を担っていただけるよう、働きかけを行ってまいります。
これからも、これらの活動が一層効果的なものになるよう、保険会社のOB・OGに消費者啓発の役割を担ってもらう「シニアコンダクター」等、当協会のリソースを活用し、取り組んでまいります。
イ.地震保険の普及促進
地震保険の付帯率は、全国平均で約6割に至っておりますが、都道府県別では、格差が生じております。そのため2015年度は、付帯率の底上げを図る観点から、重点取組地域とした11道府県にて、居住地域における地震発生リスクと地震保険の有用性に関する理解を深めていただくことを目的とした、フォーラムイベントを開催してまいりました。
参加者を対象に実施したアンケートによると、本フォーラムイベント実施前後で、居住地域における地震発生リスクを認識する方が倍増し、約9割となりました。また、地震保険に未加入であった参加者のうち、約8割の方が新たに地震保険の加入意向を示されました。こうしたことから、本フォーラムイベントの一定の目的を果たすことができたと考えております。
我が国は世界でも有数の地震国であり、国民生活において、地震災害に対する自助の備えは必要不可欠なものであると言えます。今後も、自助の備えとなる地震保険の有用性を一人でも多くの方にご理解いただけるよう努め、日本損害保険代理業協会等とも協力し、地震保険の普及という、損害保険業界に課せられた使命を全うしてまいります。
ウ.地域の実態に応じた「防災・減災」取組みの推進
近年、自然災害が大規模化・多様化するなか、住民が居住地域の災害特性を理解する重要性はますます高まっていると言えます。そのため2015年度は、大規模災害の発生が危惧される地域や記録的な災害が発生した地域のうち、京都府、広島県、徳島県、高知県、熊本県を重点取組地域として、各地域で懸念される自然災害をテーマとした講演やワークショップ等、地域の実態に応じた防災・減災の啓発活動を実施してまいりました。
今後も、各自治体との連携を深め、自助・共助の強化による地域の防災力の向上に資する活動を進めてまいります。
(2)各種課題
ア.超高齢社会への取組み
近年増加している高齢者による交通事故の防止・削減を、重要かつ喫緊の課題と認識して、本取組みを進めてまいりました。平成27年秋の交通安全週間においては、昨年新たに作成した、高齢者向け交通事故防止チラシを活用し、事故防止の啓発活動を実施いたしました。また、高齢者に関する事故データや交差点ごとの事故予防策等を新たに追加した「全国交通事故多発交差点マップ」を当協会ホームページに掲載することなどを通して、交通事故の防止・削減に関する情報をお伝えしてまいりました。
また、当協会の諮問機関である「お客さまの声・有識者諮問会議」の傘下に作業部会「高齢者タスクフォース」を設置し、超高齢社会の進行に伴う諸課題や損害保険業界の果たすべき役割について、有識者の方々にご意見を取りまとめていただきました。
イ.新たなリスクへの取組み
現在、様々な産業において見られる技術革新の潮流のなかでも、特に活発な論議が進められている自動車の自動運転について、有識者を交えた「ニューリスク研究会」を設置し、保険実務や法的観点等から専門的・多角的な検討を行い、これまでの取りまとめとして「自動運転の法的課題について」を作成いたしました。今後も、新技術の実用化が損害保険業界に与える影響に関する研究を行い、各社共通となる事業基盤の整備に資する取組みを推進してまいります。
ウ.グローバル化への取組み
現在、保険監督者国際機構(IAIS)を中心にシステム上重要なグローバルな保険会社(G-SIIs)および国際的に活動する保険グループ(IAIGs)向けの各種国際規制の策定が進められています。当協会では、IAISにおける様々なコンサルテーションにおいて、調和のとれた国際ルール策定と金融安定化の向上のための論議に積極的に参加し、本邦損害保険業界としての要望・提言を行ってまいりました。
また、アジア諸国・地域の金融インフラ整備支援として、日本国際保険学校(ISJ)の一般・上級コースや海外セミナーの開催、募集人試験・教育制度導入支援等、各損害保険市場の健全な発展と会員会社の海外事業基盤の整備に資する取組みを行ってまいりました。
エ.保険犯罪への取組み
組織的犯罪の増加や犯罪手口の高度化・巧妙化を踏まえ、不正請求排除のためのシステムインフラ整備に取り組んでまいりました。今後は、“ヒト”に関わる分野において既に運営を開始している保険金請求歴情報交換システムの対象を全種目に拡大する予定です。こうした取組みを通じて、保険制度の健全性の維持・向上に努めてまいります。
オ.新たな募集態勢構築への取組み
2016年5月29日に施行された改正保険業法に対応すべく、当協会ではこれまでに各種ガイドライン等を改定し、会員各社に周知するなどの対応を行ってまいりました。今後も、万全の保険募集態勢の構築に努めるとともに、お客さまからの一層の信頼を得られるよう、損害保険代理店と共に引き続き取り組んでまいります。
カ.消費者からの相談・苦情・紛争解決への取組み
「そんぽADRセンター」における消費者対応のモニタリング等を踏まえ、同センターの態勢強化として、相談員への新たな研修プログラムを策定し、研修を実施いたしました。また、紛争解決手続きにおいて、原則として、面談による意見聴取を実施していくための態勢を強化してまいりました。今後も、同センターに寄せられる消費者の声の分析や会員各社へのフィードバック等を通じて、損害保険業界全体の業務品質の向上に取り組み、消費者からより一層信頼される業界を目指してまいります。
キ.税制改正要望
近年、巨大自然災害が頻発している中で、保険会社が確実に保険金をお支払いするという社会的責任を全うするため、税制改正要望の重点要望項目として掲げた「火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実」が平成28年度税制改正にて決定され、現行の積立率5%が維持されることになりました。また、「外国子会社合算税制の見直し」については、適用除外基準の見直しが行われることとなりました。
4.おわりに
この1年間、第7次中期基本計画のスタート年として、重点取組み項目を中心に、各課題を着実に進めることができました。日本損害保険協会の協会長業務を遂行するにあたり、皆さまの温かいご支援、ご協力をいただきましたことについて、心から御礼申し上げます。
昨年6月末の協会長就任以降、九州地区で猛威をふるった台風15号、関東・東北地方を中心に集中豪雨をもたらした台風18号、そして4月に発生した平成28年(2016年)熊本地震等、自然災害による被害が相次ぎました。当協会では、近年の大規模自然災害を踏まえ、自助・共助の重要性を伝える活動を重点取組みとして進めてまいりましたが、昨今の状況を鑑みますと、こうした活動を一層強化していく必要があると認識しております。
損害保険業界においては、自然災害の大規模化・多様化に加え、超高齢社会の進展やICTの高度化など、環境変化に伴う社会からの要請に確実に応え、様々な保険商品やサービスを通じて、社会の安定と経済の発展を支えながら、「安心・安全な社会づくり」へ貢献できるよう努めてまいります。引き続きのご理解、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
以 上