協会長ステートメント
会長 金杉 恭三

日本損害保険協会会長就任にあたり、以下のとおり所信を申し上げます。

はじめに

 6月18日に発生した山形県沖を震源とする地震により、被害を受けられました皆さまに、心からお見舞い申し上げます。
 損害保険業界といたしましては、被害に遭われた皆さまからのご相談に親身に対応するとともに、迅速かつ確実に保険金をお支払いするよう取り組んでまいります。

環境認識

 我が国の経済は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を一年後に控え、個人消費と設備投資が増加傾向にあり、緩やかな回復が続いています。また、2025年には大阪・関西万博の開催も予定されており、景気刺激策として期待されています。一方、我が国を取り巻く世界経済は、全体としては緩やかに回復しているものの、米中通商問題、英国のEU離脱問題、中東情勢などのリスク要因によって、先行きが不透明になっており、我が国の経済にとっても不安要素となっています。

 我が国の自然環境については、昨年、気候変動の影響によって、西日本豪雨、台風21号、台風24号が甚大な被害をもたらした他、局地的大雨が頻発化するなど地域ごとに多様な災害が発生しています。さらに、先日の山形県沖を震源とする地震、昨年の大阪府北部地震、北海道胆振東部地震なども発生し、我が国が絶えず自然災害リスクにさらされていることが改めて認識されています。このため、今後も発生が見込まれる大規模な自然災害に備えて、それぞれの地域に応じた防災・減災の取組みを加速・浸透させることが従来にも増して重要になっています。

 我が国の社会については、2040年には総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が約35%を占める超高齢社会となると推計されています。長寿化自体は歓迎すべきことですが、高齢者が当事者となる交通事故が増加するなど、社会問題となっています。

 また、少子化の影響によって、同年には総人口が約1億1,000万人まで減少し、生産年齢人口の減少による人手不足がもたらす経済活動への負の影響が懸念されています。これを受けて、改正出入国管理法が施行されており、今後、増加が見込まれる在留外国人と共生する社会への円滑な移行が必要であると考えられています。

 さらに、G20 大阪サミットを契機として国際的に注目度が高まっており、また、9月から始まるラグビーワールドカップや来年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催などにより訪日外国人旅行者の増加が見込まれています。政府の成長戦略(2019年)のKPI(成果指標)においても、訪日外国人旅行者数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人とすることが掲げられており、受け入れ体制の整備が課題となっています。

 このような我が国が直面している様々な課題は、いずれも先送りできない重大なものであり、経済が堅調に推移している「今こそ」、課題解決に向けて着実に歩みを進めるべきであると考えております。

取組み方針

 こうした多岐に亘る課題や環境変化に適切に対応し、我が国の明るい未来を切り拓いていくためには、国を挙げた取組みが行われ、各界それぞれが責務を果たしていくことが必要であります。

 損害保険業界においては、会員各社がそれぞれの特長に応じ、様々なリスクに対応した新商品開発、自然災害リスクの引受能力の向上、迅速な保険金支払態勢の構築など、経営の創意工夫を凝らし、社会や経済を下支えしてまいります。

 日本損害保険協会(以下、当協会という)としては、このような会員各社の活動を支援するとともに、業界全体の取組みとしてリスクの啓発活動や、情報提供、意見表明などを通じて、「安心かつ安全で持続可能な社会の実現」と「経済および国民生活の安定と向上」のために全力で貢献してまいります。

 当協会の第8次中期基本計画の2年目となる2019年度については、初年度に掲げたSDGs達成への貢献、Society5.0実現への貢献という2つの観点を踏まえつつ、我が国を取り巻く環境および損害保険業界の使命・機能に基づき、優先的に対応すべきと考えられる「自然災害に対する取組み」と「高齢者・外国人向けの取組み」の2テーマを重点課題に設定し注力してまいります。

具体的取組み

1.2019年度 重点課題

(1)自然災害に対する取組み

 昨今、自然災害が毎年のように頻発しており、我が国は、いわゆる「災害大国」であると言っても過言ではありません。そのため常日頃からそれぞれの地域に応じた防災・減災の取組みを行い、地震・台風・洪水などに備えておく必要があります。

 今年度、当協会は、昨今の自然災害も踏まえ、より一層、各地域の実情に応じた防災・減災のための活動を全支部において行ってまいります。なかでも、昨年、大きな水害が発生した岡山県、観測史上初の震度7を記録した北海道において、改めてリスクを啓発するイベントの開催を予定しています。啓発にあたっては、気象庁の風水害データを取り込んだ防災情報のまとめサイト「そんぽ防災Web」の活用や、各地域の気象台とも連携した取組みを行ってまいります。

 また、地域における交通安全意識や防災・防犯意識の向上、安心で安全な地域への改善を目指す実践的な安全教育プログラムである「ぼうさい探検隊」については、さらなる取組みの普及に向けて、日本損害保険代理業協会とも連携して地方自治体や小学校などへ働きかけてまいります。

 従来から行っている地震保険制度に関する課題への対応や地震のリスク啓発および地震保険の加入促進についても、引き続き注力してまいります。

(2)高齢者・外国人向けの取組み

ア.高齢者向けの取組み

 高齢社会の進展を受けて、老後の運動能力の低下や疾病の発症後も、高齢者が住み慣れた地域で安心・安全に生活できる環境づくりが求められています。
 当協会は、高齢者の交通事故の防止策として高齢歩行者の外出時の交通安全のため、反射材付きの交通事故防止ツールなどの提供を行ってまいります。また、高齢ドライバーの交通事故防止をテーマとする高齢者や高齢者の家族向けのイベントなどを警察や地方自治体、関係団体などと連携して開催し、啓発活動を行ってまいります。

イ.外国人向けの取組み

 今後、我が国社会の国際化の進展に対応して、在留外国人に定着いただくことや外国人材の目を日本に向けていただく観点から、住みやすい安心・安全な生活環境の整備が急務です。また、増加する訪日外国人旅行者に対しても、安全に滞在していただくための支援が求められています。
 当協会は、交通事故防止啓発ツールの多言語化や関係省庁・地方自治体などと連携した災害時の外国人向け情報提供ツールの拡充などを行ってまいります。この取組みにおいては、初めての試みとして、外国人ドライバーの事故データを分析のうえ、特徴的な事故原因についての注意を喚起するチラシもラインナップに加え、外国人の交通事故多発地域を中心に啓発活動を展開してまいります。

2.各種課題への取組み

(1)技術革新への対応

ア.自動運転技術に関する取組み

 自動運転技術については、地方における移動手段の確保、都市における円滑な移動、物流の効率化などの観点から官民で様々な取組みが進んでいます。当協会は、関係省庁の検討会へ参画し業界意見の発信などを行うとともに、消費者向けに自動運転技術の情報発信を行っております。引き続き、自動運転中の事故が発生した場合の保険金支払いについて、関係省庁などと検討・議論を重ねてまいります。

イ.新技術に関する取組み

 当協会は、新技術の活用による損害保険業務の共通化・標準化を通じた効率化策を検討するとともに、サイバーリスクへの備えについて広く啓発活動を行っております。今後は、関連情報の収集や調査研究、社会への情報提供を行ってまいります。

(2)業務品質向上に関する取組み

 当協会は、代理店の募集品質向上を支援するため、損害保険募集人資格の最高峰である「損害保険トータルプランナー」認定制度を設けており、現在約12,000名の認定募集人が全国で活躍しています。引き続き、制度の魅力向上に努めるとともに、お客さまに満足していただける募集・提案活動が行えるよう、指定教育機関の日本損害保険代理業協会とも連携しながら、募集人の教育や試験制度の充実を図り、実践的な知識・スキルの修得を支援してまいります。

(3)お客さまからの相談対応、苦情・紛争解決に関する取組み

 当協会は、損害保険に関する相談・苦情に対応するほか、お客さまと保険会社とのトラブルに係る苦情解決および紛争解決の手続きのため「そんぽADRセンター」を設置しております。引き続き、お客さまからの相談や苦情の早期解決のために取り組むとともに、中立・公正な立場から紛争解決のための支援をしてまいります。また、会員各社への重要な苦情・紛争事例に関する情報提供を行い、業界全体の業務品質の向上を図ってまいります。

(4)大規模地震の発生に備えた態勢整備に関する取組み

 当協会は、大規模な地震の発生に備え、被災された方々へ地震保険金を円滑かつ迅速にお支払いできる態勢を整えてまいりました。引き続き、地震災害時の支払態勢の強化に向け、業界が共同して調査をする仕組みや損害調査の簡素化、IT化などの検討を行ってまいります。

(5)保険金の不正請求防止に向けた取組み

 当協会は、不正請求防止システムの活用や警察と連携した「損害保険防犯対策協議会」などの開催を通じ、不正請求防止に関する啓発活動に取り組んでおります。引き続き、損害保険制度の安定と保険契約者間の公平性を確保するため、保険金の不正請求防止の取組みを行ってまいります。

(6)国際基準などに関する取組み

 当協会は、保険監督者国際機構(IAIS)の議論において、損害保険事業の国際基準が我が国の実態に即したものとなるよう、国内外の関係機関と連携し適切な意見表明を行ってまいります。また、国際基準と調和した国内基準の策定に向け、関係当局などと緊密な意見交換を重ねてまいります。

(7)アジア各国・地域の損害保険市場に関する取組み

 当協会は、アジア各国・地域の損害保険市場の安定と発展、および信頼向上のため、我が国の経験や知見に基づき、アジア各国・地域の金融インフラ整備支援を進めてまいります。また、アジア各国・地域の保険監督官庁や保険協会との情報・意見交換などを通じ関係を強化してまいります。

おわりに

 前述のとおり、我が国は「災害大国」であるとともに、人口減少や超高齢社会への対応などの課題を多数抱えている「課題先進国」です。
 これらの課題解決に向けては、AIやロボットなど時代を切り拓く革新的技術の潮流が生まれつつあります。現時点では試行・研究段階にある革新的技術を社会実装させていくことが、我が国の発展のためには有効であると考えられています。そのプロセスにおいては新たなリスクの発生が予見されており、リスクへのカバーを提供するという損害保険機能の発揮が求められる機会が増加すると確信しております。
 これまで当協会は、「安心かつ安全で持続可能な社会の実現」と「経済および国民生活の安定と向上」という社会的使命を果たすべく努めてまいりました。いつの時代もその役割は不変であると考えております。
 多様な課題がある困難な時代であるからこそ、従来にも増して、日本の発展や成長を後押しするべく、その役割を果たしていくことが必要と強く認識しております。
 令和元年。日本が新しいスタートを切りました。若者から高齢者まですべての人々が活躍でき、健やかに生活できるような日本の明るい未来に貢献できるよう会員各社と当協会が一丸となって取り組んでまいります。
 皆さまのご支援・ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。

以 上

2019年6月 協会長就任ステートメント(PDF)

サイト内検索