協会長ステートメント
会長 金杉 恭三

 日本損害保険協会会長として、この1年間の主な取組みにつきまして、ご報告と所感を申し上げます。

はじめに

 この度の新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、罹患された方々およびそのご家族に、心からお見舞いを申し上げます。
 また、医療従事者をはじめとした社会を支える仕事に従事されている方々の献身的な努力、勇気と奮闘に対して敬意を表するとともに、損害保険業界を代表して御礼申し上げます。

1.新型コロナウイルス感染症への対応

 新型コロナウイルス感染症が問題化してから、既に約5か月経過しましたが、いまだ世界各国に感染を拡大させながら猛威を振るい続けており、多くの人命が損なわれ、社会や経済に甚大な被害をもたらしています。我が国においては、全国に発令されていた緊急事態宣言が解除されたものの、長丁場での対応が必要となっており、感染症の拡大防止と社会・経済の回復の両立を図っていくステージに移行しております。
 損害保険業界では、緊急事態宣言解除後の業務運営に関し、当協会において基本となるガイドラインを定め、会員各社では、これを踏まえた業務運営を取り入れ、感染症の拡大防止に最大限努めるとともに、お客様に必要なサービスを維持・継続しております。
 また、感染症の拡大防止とその影響で保険料の払い込みが困難となった方の救済を目的に、保険契約の継続手続きや保険料の払込みを猶予する措置や、厳格な事務処理が必要な自賠責保険についても、契約内容の変更や解約手続きにおいて、今回初めて猶予対象に含めております。
 さらに、新型コロナウイルス感染症による損害を補償するために、会員各社では、店舗で感染者が発生し保健所による消毒指示等の措置に伴って休業した場合の緊急対応費用や、ホテルなど病院以外の臨時施設での療養を補償対象に含めるなどの商品の見直しを行っております。加えて、企業におけるテレワークの拡大を受け、それに伴うサイバーリスクなどを補償する商品の開発や啓発活動も行っております。
 今回の新型コロナウイルス感染症の影響を受け、損害保険業界においても大きな変革が起きつつあります。当協会では、これまで効率かつ効果的な業務運営の確立に向けて従来業務の見直しに取り組んでまいりましたが、今回の対応を契機として得られた気づきを活かし、政府から示された対面・押印・書面を前提とした業務慣行の見直しや、新しい生活様式の一層の実現という観点も踏まえて検討し、お客様からの期待に応えてまいりたいと考えております。引き続き、社会・経済を支えるインフラとしての機能・役割を発揮し、我が国の社会・経済の再生に貢献してまいりたいと考えております。

2.2019年度 重点課題

 当協会では、第8次中期基本計画の初年度に掲げた、SDGs達成への貢献、Society5.0実現への貢献という2つの観点を踏まえつつ、昨年度は、重点課題として設定した「自然災害に対する取組み」、「高齢者・外国人向けの取組み」を推進してまいりました。

(1)自然災害に対する取組み

ア)自然災害対応検討PTの取組み

 当協会では、2018年度および2019年度に発生した大規模自然災害を受け、常態化・激甚化する自然災害への対応を強化するため、保険金支払いに関する共同取組み等、各社共通の諸課題について検討を行っております。例えば、ドローンや軽飛行機、人工衛星を活用した空撮による被災地域の情報を会員各社へ提供する仕組みについて、提携候補先と協議しております。引き続き、各取組みの準備を進めてまいります。

イ)地域の実情に応じた啓発イベント

 当協会では、各地域の実情に応じた防災・減災の取組みを行っており、昨年度は全国各地で延べ61回の啓発イベントを開催いたしました。主なものといたしましては、昨年7月には、「平成30年7月豪雨」で被害を受けた岡山県で「豪雨災害への備え」をテーマに防災セミナーを行いました。また、同年9月には、「平成30年北海道胆振東部地震」から1年を契機として、北海道で地震防災フォーラムを開催しました。さらに、10月には、愛知県で開催された「ぼうさいこくたい2019」において、「南海トラフ地震への対策と備え」について啓発活動を行いました。引き続き、関係省庁や地方自治体等と連携し「自助」、「共助」、「公助」の3つを組み合わせた取組みの重要性について啓発を行ってまいります。

ウ)児童向けの防災教育取組み

 当協会では、子どもたちの防災意識や交通安全意識の向上のため、「ぼうさい探検隊」を通じた教育取組みを行っております。2019年度は全国47都道府県の小学校や児童館・こども会など16,492人の児童が参加し、過去最高となる594団体から応募がありました。引き続き、日本損害保険代理業協会とも連携して本取組みの普及に努めるととともに、ICT教育と防災教育との融合を進める観点から、タブレット端末を活用した「まち探検」についても推進してまいります。

エ)地震保険の普及に向けた取組み

 当協会では、地震保険の理解促進とさらなる普及を図るため、消費者への啓発イベント以外に、全国12か所で代理店向けセミナーを開催し代理店の募集活動の支援を行っております。また、テレビCMおよびポスター等の広報活動に加え、南海トラフ地震への備えを題材としたテレビ番組の提供なども行いました。こうした取組みの結果、現在、地震保険の保有契約件数は約1,970万件と拡大(※)しており、全国へ普及が進んでおります。引き続き、首都直下地震や南海トラフ地震など大規模な地震の発生に備え、地震保険の普及と消費者の理解促進に向けた取組みを行ってまいります。
(※)地震保険保有契約件数:19,740,800件
   (2020年3月末現在・損害保険料率算出機構)
   対前年同月比+3.9%(+734,959件)

(2)高齢者・外国人向けの取組み

ア)高齢者の交通事故防止取組み

 当協会では、警察や地方自治体、大学、関係団体などと連携し交通事故防止イベントや啓発ツールの配布活動などを全国各地で延べ140回行ってまいりました。昨年9月には、高齢歩行者向けの交通事故防止ツールとして、株式会社ポケモンと連携した「ピカチュウ反射リストバンド」や高齢者交通事故防止チラシ等を配布するとともに、事故多発交差点マップを更新し、全国の事故防止取組みにおいて活用しました。本年2月には、香川県において、「高齢者交通事故防止シンポジウム」を開催し、安全運転サポート車の試乗体験や有識者講演、産官学民によるパネルディスカッションを行いました。今後も、高齢者が当事者となる交通事故の減少に向けて、地域の実情に応じた啓発活動を行ってまいります。

イ)外国人向けの取組み

 当協会では、昨年9月に、災害時の訪日外国人旅行者・在留外国人向け情報提供サイト「Information on Staying Safe in Japan」をリリースしました。以降、同サイトの周知ツールの全国配布や外国人向けWebサイトとのタイアップなど、PR活動に注力しており、5月末現在で、アクセス総数11,936件、67の国や地域の方々に利用していただいております。昨年12月には、外国人の方が起こしやすいとされる交通事故や、運転中および歩行中の「ながらスマホ」の禁止についての注意喚起チラシを作成し、警察庁ご協力のもと趣旨に賛同いただいた全国の警察本部へ提供しました。今後も、訪日・在留外国人の方が安心・安全に日本に滞在できるよう啓発活動を行ってまいります。

終わりに

 この度の新型コロナウイルス感染症は、従来の枠組みや既成概念を劇的に変革させることを求めており、いわば巨大な地殻変動をもたらしたと認識しております。
 他方、我が国は、自然災害や人口減少、超高齢社会への対応など、様々な課題を抱えております。確かに新型コロナウイルス感染症は大きな危機をもたらしておりますが、同時にこれは、現在まで未実現であった領域にチャレンジするチャンスと捉えることも可能であると考えております。我が国の様々な課題克服のために国や各界が力を合わせ努力することにより、必ずや道が開けると確信しております。
 損害保険業界といたしましては、自らが変革するとともに、社会の変化や新たなチャレンジに伴い発生するリスクに対し、補償の提供を通じて、社会インフラとしての機能を発揮し、我が国における、「安心かつ安全で持続可能な社会の実現」と「経済および国民生活の安定と向上」に貢献してまいりたいと考えております。
 就任時に掲げた重点課題などの取組みは、予定通り進めることができました。しかしながら、一方で、新たに発生した新型コロナウイルス感染症への対応が道半ばとも言えるこの時期に、会長という襷を次へ託す事は大変心苦しく思っております。今後は、一理事として次期会長を支えてまいりますので、引き続き、損害保険業界および当協会に対するご理解・ご協力を宜しくお願い申し上げます。
 この一年間、皆様からの温かいご支援をいただきましたことに、心から御礼申し上げます。

以 上

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