協会長就任にあたって
会長 広瀬 伸一
2020.06.30
日本損害保険協会会長就任にあたり、以下のとおり所信を申し上げます。
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症は、今なお、世界中で猛威を振るい続けております。新型コロナウイルス感染症でお亡くなりになられた方々へ謹んで哀悼の意を表しますとともに、ご遺族ならびに罹患された方々やそのご家族に心からお見舞い申し上げます。また、命の危険と隣り合わせで懸命に働く医療従事者の皆さまや、様々な分野で社会インフラを支えておられる皆さまに、損害保険業界を代表して心から感謝と敬意を表します。
我が国においては、緊急事態宣言は解除されたものの、未だに予断を許さない状況が続いております。今後は、第2波・第3波にも備えながら、国民の生命と健康を第一に、段階的かつ着実に経済活動の再開を進めていくことが重要であると考えております。
損害保険業界は、感染症の影響が残る環境下においても、国民の皆さまが、より安心・安全で健康な生活を送ることができるよう、感染拡大防止に努めながら、しっかりと使命を果たしてまいる所存です。
2.新型コロナウイルス感染症への対応ならびに環境認識
当協会では、「新型コロナウイルス感染症対策に関する基本方針」を定め、感染症対策の体制を構築するとともに、職場・オフィスにおける従業員等の感染防止のために講じるべき具体的な対策、従業員等の感染が確認された場合の対応について、会員各社と共有しながら、感染拡大防止に取組んでおります。
また、会員各社においても、一企業市民として、お客さま、代理店、従業員等の感染拡大防止に最大限努めながら、お客さまに必要なサービスの提供を維持・継続しております。電話やオンラインでの通信等を積極的に活用した非対面の手続き等、柔軟な対応を行い、更に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたお客さまには、更新契約の締結手続きや保険料払込期間に猶予を設ける特別措置を実施しております。加えて、会員各社では、新型コロナウイルス感染症による損害を補償するための商品の見直しや、テレワークの拡大に伴って生じるサイバーリスクなどの新たに発生・拡大するリスクを補償するための商品提供等を行っております。
当協会では、今回の対応で得られた様々な気づきを活かし、政府から示された書面・押印・対面手続きの見直しに向けた取組みや、新しい生活様式への対応という観点も踏まえ、社会インフラとしての機能・役割をより発揮すべく変革に努めてまいりたいと考えております。
また、我が国では、近年、地震や台風、集中豪雨といった大規模自然災害が連続して発生し、損害保険業界のお支払いする自然災害に関する保険金が増加傾向にありますが、特に一昨年、昨年と2年続けて1兆円を超える保険金をお支払いいたしました。国民の皆さまが激甚化する自然災害に備えるにあたり、損害保険業界の果たす役割はますます重要になっていると認識しておりますが、更に、新型コロナウイルス禍における大規模自然災害時の保険金支払いという新たな課題も発生しております。加えて、サイバーリスク等、国民の皆さまや企業が新たなリスクに備えることも、これまで以上に重要になっているほか、デジタル化に代表される新しい技術の出現による環境変化に、損害保険業界としても迅速・的確に対応していく必要性も高まっていると言えます。
このような損害保険業界の直面している様々な課題は、どれも先送りのできないものであり、これらの課題を一つずつ着実に解決しつつ、万一の際にお客さまをしっかりお守りする保険商品・サービスのご提供を通じ、安心かつ安全な社会の形成に向けて、引き続き尽力してまいります。
3.取組み方針
当協会は、「損害保険業の健全な発展」および「信頼性の向上」を図ることにより「安心かつ安全な社会の形成」に寄与することを目的とし、「第8次中期基本計画(2018年度~2020年度)」を定め、「環境変化への迅速・的確な対応」「お客さま視点での業務運営の推進」「より強固で安定的な保険制度の確立」「国際保険市場におけるさらなる役割の発揮」を4つの柱とし、SDGsの観点も踏まえて取組みを進めてまいりました。
本年度は、「第8次中期基本計画」の最終年度として、次期中期基本計画(2021~2023年度)の策定を進めるとともに「自然災害への対応力強化」「金融・損害保険リテラシーの向上」「業務の共通化・標準化の推進」に重点を置き、新型コロナウイルス感染症が社会全体に与える影響も踏まえて諸課題の解決に努めてまいります。
4.具体的な取組み
(1)自然災害への対応力強化
自然災害に強い社会の構築に向けて、いかなる状況においても適正かつ迅速な保険金のお支払いを実現できるよう、着実に各種の取組みを進めてまいります。
当協会では昨今の自然災害対応に関する業界課題の検討・解決のため、昨年12月に「自然災害対応検討プロジェクトチーム」を設置いたしました。既に課題解決に向けていくつかの検討を進めておりますが、本年度は更に課題を具体化し、その解決に向けて取組みを前進させてまいります。
まず、大規模自然災害の発生時を想定し、スマートフォンのアプリケーション等を通じたご案内の仕組みを用意するなど、避難所等からでも迅速に保険金請求手続きを開始いただけるよう仕組みを改善してまいります。
また、適正かつ迅速に保険金をお支払いするために、損害額を早期に算出する手法についても様々な角度から検討するほか、国や地方自治体と連携し、ハザードマップの普及促進や、当協会作成のコンテンツ提供等を通じて、国民の皆さまの防災・減災意識の向上に貢献してまいります。
2021年3月11日は東日本大震災から10年となります。当協会では、震災から10年間の業界の取組みを振り返り、改めて来るべき大規模自然災害から多くの国民の皆さまの命と財産を守るための事前の備えの重要性について発信するセミナーを開催致します。
(2)金融・損害保険リテラシーの向上
自然災害の激甚化・多発化に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響等、社会の不確実性が増しています。国民の皆さまが安心して生活し、企業が元気に活動を続けるためには、リスクを正しく認識し、保険商品を適切に選択・利用いただくことでリスクに適切に対処できる力(損害保険リテラシー)を養うことが益々重要になっています。
国民の皆さまの損害保険リテラシーの向上を当協会の重要な役割と位置づけ、身の回りのリスクや防災・減災などに関して、身に付けるべき知識を整理・発信してまいります。
また、新型コロナウイルス感染症対応での気づきを活かし、ポータルサイトの整備・改修を行い、オンラインで利用可能な学習教材・啓発ツールを積極的にご案内してまいります。
(3)業務の共通化・標準化の推進
技術革新のスピードが加速する現代において、損害保険業界として新しいテクノロジーを積極的に導入し、会員各社が提供する仕組みの共通化・標準化を進めることで、業務効率の向上を図り、お客さまの利便性向上に繋げていく必要があります。
本年度は、保険商品、損害サービス、事務といった領域ごとに取組みを進めてまいります。例えば、年末調整や確定申告に使用いただく保険料控除証明書については、現在、各社で提供する商品ごとに発行しておりますが、その発行機能を共同化することで業界全体の事務効率を高め、お客さまの利便性向上を実現してまいります。
また、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、現在、自賠責保険の異動・解約手続きに猶予を設け、郵送で行うことを可能とする特別措置を実施しています。今後求められる新しい生活様式に対応するため、こうした各種の業務プロセスについても、見直しを進めていくべき課題と捉え、改善に向けた検討を行ってまいります。
これら共通化・標準化に向けた各種業務プロセスの見直しにあたっては、今日的な視点で改めて広く項目を洗い出し、中長期的な課題も視野に入れ、継続的に取組んでまいります。
(4)各種課題への取組み
1.高齢者・外国人向けの取組み
当協会は、前年度取組みを強化した高齢者の交通事故防止に有効な情報の発信を通じた啓発活動や、外国人向け情報提供ツールを引き続き展開してまいります。
2.サイバーリスクに関する取組み
当協会で開設している「サイバー保険特設サイト」を中心に、中小企業のサイバーセキュリティ対策強化に向けた啓発活動を引き続き行ってまいります。また、代理店へのサイバー攻撃のリスクも高まっており、代理店のサイバーセキュリティ対策についても、広く展開を図ってまいります。
3.代理店の募集品質向上に関する取組み
当協会は、代理店の募集品質の向上を支援するため、損害保険募集人資格の最高峰である「損害保険トータルプランナー」認定制度を設け、認定された1万4,000人以上が全国各地で活躍しております。本認定制度をより魅力ある制度にするための取組みを進めてまいります。
4.保険金の不正請求の防止に向けた取組み
当協会は、不正請求防止システムの活用や警察と連携した「損害保険防犯対策協議会」などの開催を通じ、不正請求に関する啓発活動に取組んでおります。保険金詐欺や不正請求等の、保険制度の健全性を損なう行為を排除するため、損害保険会社共通のデータベースの拡充等を進めてまいります。
5.お客さまからの相談対応、苦情・紛争解決に関する取組み
当協会は、損害保険に関する一般的な相談・苦情に対応するほか、お客さまと保険会社とのトラブルの苦情解決および紛争解決手続きを行うために「そんぽADRセンター」を運営しています。引き続き、中立・公正な立場からトラブル解決に向けた支援を行ってまいります。
6.国際基準等への適切な対応
保険事業のグローバル化や会員各社の海外事業展開が進む中、保険監督者国際機構(IAIS)および関係省庁や経済協力開発機構(OECD)等への各種要望・提言活動を通じて、国際的な規制の調和や通商障壁の解消等に繋がる働きかけを行ってまいります。
7.新興国市場への各種支援の取組み
当協会は、金融庁、損害保険料率算出機構、損害保険事業総合研究所など関係省庁・団体とも連携し、アジア各国・地域の金融インフラ整備に資する保険技術協力を行っております。アジア各国・地域の損害保険市場の安定と健全な発展のため、今年度も各国・地域のニーズに合った支援に取組んでまいります。
5.おわりに
損害保険業界は、100年を超える長い歴史の中で、度重なる大規模自然災害の発生や様々な社会の環境変化に対応し、数多くの難局を乗り越えてまいりました。
新型コロナウイルス感染症の影響で、先行きの見通せない状況が続いておりますが、一方で、働き方の変革や日本社会のデジタル化の流れを加速させる側面もあると認識しております。
新型コロナウイルス感染症への対応を機に、これまでの業界慣行を見直し、変革に向かう機会と捉え、課題の解決に向けて前向きに取組みを進めてまいります。こうした課題や環境変化に着実に対応していくことで、引き続き国民の皆さまの安心・安全を支え続ける社会インフラとしての役割を果たし、ご期待にお応えできるよう力を尽くしてまいる所存です。
皆さまのご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます
以 上