協会長ステートメント
会長 広瀬 伸一

 昨年12月の定例会見以降の主な取組みにつきまして、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 今年に入ってわずか2か月の間に、福島県沖を震源とする地震や発達した低気圧による大雪・暴風被害等、自然災害が各地で相次ぎ発生しました。被害を受けられた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
 当協会は、被災された皆さまのお力となりますよう、自然災害等損保契約照会センターを設置し、お問い合わせやご相談等に誠心誠意お応えしております。
 会員各社は、損害調査をはじめとする保険金支払い対応においても、新型コロナウイルス感染拡大防止のための工夫をし、迅速に保険金をお届けできるよう努めております。被災された皆さまが一日も早く日常生活を取り戻せるよう、損害保険業界としての使命をしっかりと果たしてまいる所存です。

2.新型コロナウイルス感染症への対応について

 1月には、感染が拡大する地域に対して緊急事態宣言が再び発出されました。緊急事態宣言の効果もあり、感染拡大傾向は収まりつつありますが、医療従事者の皆さまの懸命な対応は続いております。
 こうした状況下、新型コロナウイルスへの対応につきまして、お客さまの保険に対する関心やニーズが高まってきております。会員各社においては、テレワークの推進や非対面での募集活動等により感染拡大防止に継続して取り組むとともに、新型コロナウイルスの影響を受けたお客さまには、継続契約の手続きや保険料のお支払いを猶予する等の特別措置を実施しております。また、新型コロナウイルスに対応する補償の見直しや商品開発に向けて鋭意取り組んでおり、今年1月には、感染者発生によって休業を余儀なくされた場合に、一定の金額を補償できるよう事業者向けの商品を改定した会社もあります。引き続き感染拡大防止を徹底し、損害保険業界の役割を果たしてまいります。 

3.今年度の重点取組みについて

(1)自然災害への対応力強化

ア.地震災害に対する取組み

1.「福島県沖を震源とする地震」への対応

 当協会は、協会長を本部長とする「2020年度自然災害対策本部」にて、会員各社と連携しながら対応しております。今回の地震により災害救助法が適用された地域で被害を受けられた皆さまを対象として、継続契約の締結手続きおよび保険料のお支払いについて、本年8月末日まで猶予する特別措置を実施しております。
 また、これまで大規模な地震災害が発生した際には、全国各地から大人数の応援者を被災地へ派遣し、被災物件の立会調査を実施しておりましたが、現在のコロナ禍の下においてこれは難しく、お客さまの心理的なご負担を軽減する観点からも、人と人との接触機会を極力低減させる工夫をしております。
 具体的には、会員各社において、立会調査に代わってお客さまからご提出いただく損害状況申告書に基づいて損害調査を行う「自己申告方式」を積極的に活用しています。また、立会調査を行う場合においても、モバイル端末による現場立会方式(地震アプリ)を活用する等、立会時間を短縮するための工夫を取り入れ、感染拡大防止に努めております。今後はデジタルテクノロジーも活用しながら、一日も早くお客さまに保険金をお届けできるよう取組みを進めてまいります。

2.「東日本大震災」から10年

 去る3月11日に東日本大震災から10年が経過しました。当協会では、3月2日に関係省庁や関係団体のご協力のもと、オンラインセミナー「巨大地震に備える~東日本大震災から10年~」を開催いたしました。セミナーでは、今後起こりうる巨大地震を自分事として捉えていただけるよう、講演やパネルディスカッションを通じて、改めて東日本大震災を振り返り、巨大地震に備えることの重要性についてお伝えいたしました。
 当協会では、こうしたセミナーの開催を含め、これまで様々な地震保険の広報活動を展開しており、その一環で代理店の募集活動を支援する取組みも行っています。東日本大震災から10年という節目をコロナ禍で迎えた今年度は、「今年、もう一度見直す年に。」をキャッチコピーに、全国各地で代理店向けオンラインセミナーを実施し、地域に根差した代理店と連携して地震保険の普及拡大に努めております。

イ.風水災に対する取組み

 当協会は、大規模な水災が発生した際に、被災状況を早期に把握し、迅速に保険金をお支払いするため、人工衛星を活用した損害調査の仕組みの構築に、業界共同で取り組んでまいりました。その具体的な成果として、国際航業株式会社と提携し、人工衛星画像にSNS情報等を加えて、浸水の範囲と深さを精度高く把握し、会員各社に情報連携する取組みを4月から開始いたします。当協会としましては、会員各社に本データを活用してもらうことで、より迅速な保険金支払いが実現できるよう、支援してまいります。本取組みは、非対面の対応が求められるコロナ禍の下においても有効と考えております。

(2)金融・損害保険リテラシーの向上

ア.損害保険教育情報誌「そんぽジャーナル」の創刊

 来年4月に改訂される高校の学習指導要領では、民法改正による成年年齢の引き下げ等を受けて「公共」の授業が新設され、その中で民間保険について学ぶことが明記されました。そこで、実際に授業を行われる高校の教員の皆さまに、損害保険の役割や必要性をご認識いただくことが重要と考え、新たに「そんぽジャーナル」を創刊しました。本ジャーナルは、実際に当協会の教材を活用された先生の声や当協会の損害保険教育事業等を紹介しており、授業を行う上での参考情報を提供するものです。教員の皆さまには、本ジャーナルや金融リテラシーポータルサイト「そんぽ学習ナビ」を通じて、今後とも、より分かり易い情報を提供することで、損害保険の役割や必要性をお伝えし、リテラシーの向上に繋げてまいります。

イ.「そんぽ防災Web」での情報発信

 当協会は、防災情報をまとめた「そんぽ防災Web」を運営しております。同サイトは、関係省庁の災害データと損保の支払保険金データをマッチングさせたデータベースや、地震・噴火・風水害等に備えるためのコンテンツを整備する等、損害保険業界ならではの特長を有しております。同サイトは、防災実験動画やハザードマップ関連のコンテンツの充実を図っており、これからも防災情報発信のポータルサイトとして、皆さまに役立つ防災情報を積極的に発信してまいります。

(3)業務の共通化・標準化の推進

 当協会では、業務の共通化・標準化を進めることで、業務効率の向上を図り、お客さまの利便性向上に繋がるよう、取組みを強化しております。書面・押印・対面を前提とする業務慣行を見直す観点も踏まえて、会員各社の業務について、可能な範囲での共通化・標準化に取り組んでいます。これまで「年末調整に必要な地震保険料控除証明書の発行機能を共同化するシステムの開発」や、「共同保険の会員各社間の情報交換にける業界共通システムの検討」を進めてきており、いずれも本年秋にサービスインを予定しております。引き続き、お客さま向けの業務プロセス、業界内の業務プロセスの双方について、改善すべき課題の洗い出しを進め、解決に向けて取り組んでまいります。

(4)各種課題への取組み

ア.保険金の不正請求の防止に向けた取組み

 当協会では、保険制度の健全性を維持していくために、保険金詐欺や不正請求等の排除に取り組んでおります。2018年10月から不正請求疑義事案の検知を目的とした「不正請求防止システム」を運用しており、過去の不正請求データと保険金請求データを照合しております。3月から新たに、不正請求の疑いが高い事案の情報を、制度参加会社のシステムに自動連携する機能をリリースし、より実効性のある不正請求を防止する体制が整うことになりました。
 また、2月17日および3月10日に開催された消費者庁長官の会見において、福島県沖を震源とする地震に便乗した悪質商法等について注意喚起がなされております。災害に乗じた悪質な修理業者等による不正請求について、消費者庁や警察庁に加えて、日本損害保険代理業協会や日本損害鑑定協会とも連携し、国民の皆さまへの注意喚起を更に強化してまいります。

イ.国際基準等への適切な対応

 当協会は、保険事業のグローバル化や会員各社の海外事業展開が進む中、各種要望・提言活動を行っております。本年1月および2月には、資本規制や破綻処理、気候リスク等に係る保険監督者国際機構(IAIS)による一連のパブリックコメントに対し、本邦損害保険業界としての意見を提出いたしました。今後も、国際的な規制の調和や通商障壁の解消等に繋がる働きかけを行ってまいります。

ウ.新興国市場への各種支援の取組み

 当協会は、2019年10月にタイ損害保険協会と協力覚書を締結し、両国の保険市場の発展、経済・国民生活の向上につながる取組みを進めてまいりました。コロナ禍においても運営を工夫し、1月には自動車保険の不正請求防止に関するオンラインセミナーを開催しております。また、3月にはアジア各国・諸地域の損害保険会社・保険監督官庁等の職員を対象とした保険技術協力・研修プログラムである日本国際保険学校(ISJ)の上級コースの後半カリキュラムを開講したところです。引き続き、アジア各国・諸地域の損害保険業界へニーズに合わせた支援を行ってまいります。

エ.自動運転に関する取組み

 当協会では、自動運転に関する課題対応、意見発信、事故の原因等に関して調査・研究等を進めております。自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)における自動運転車の事故の保険金支払いの取扱いは、事故時の自動運転システムの作動状況を正確に把握する必要があることから、本年4月1日始期契約から自賠責保険の普通保険約款を改定し、保険会社が被保険者等に調査への協力を求めることがある旨を明記いたします。今後も、法制度や各種ルールの課題に実効性のある対策を検討・発信することで、安心・安全な社会の実現に貢献してまいります。

オ.自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)運用益拠出事業

 当協会では、1971年から損害保険各社の自賠責保険事業から生じた運用益を活用し、自動車事故防止対策や交通事故被害者への支援事業等の多様な分野に対して支援を行っております。2021年度は、全国の小・中学校等にて実施されている交通安全教室をオンライン化するモデル事業等、新規5事業を含めた42事業に総額18億5,228万円の支援を決定しました。自賠責保険の交通事故被害者への損害賠償という保険本来の役割に加えて、交通事故防止に関する研究や救急医療体制の整備、交通事故無料相談事業への支援等を、引き続き行ってまいります。

4.第9次中期基本計画の決定

 本日の理事会において、2021年度から開始する「第9次中期基本計画」を決定しました。当協会が、これからの3か年で取組みを強化すべき重点課題として「持続可能なビジネス環境の整備」「災害に強い社会の実現」「損害保険リテラシーの向上」を掲げ、その解決に向けた対応方針等について定めております。

(1)持続可能なビジネス環境の整備

 新型コロナウイルスの影響を受け、デジタルテクノロジーを活用した、非対面・非接触・ペーパレスでの業務遂行が求められるなど、私たち損害保険業界を取り巻くビジネス環境は加速度的に変容しています。また、地球環境や経済活動に重大な影響を及ぼす気候変動について、カーボンニュートラルでサステナブルな社会の実現の観点から、世の中の関心も高まっております。
 社会とお客さまの“いざ”を支える損害保険業界が「世の中に安心・安全を提供する」「社会課題を解決する」という役割を果たし続けていくためには、こうした社会環境・自然環境の変化や世の中のニーズの変化へ的確に対応し、持続可能なビジネス環境を整備していく必要があります。特に気候変動につきましては、損害保険業界としてカーボンニュートラルでサステナブルな社会への移行に貢献していくとともに、当協会としても、その実現に向けて会員各社の取組みを下支えしてまいります。

(2)災害に強い社会の実現

 損害保険業界に期待される社会的役割を発揮するため、地球温暖化に伴って多発化・激甚化する自然災害への対応力を更に強化してまいります。具体的には、自然災害が発生した際に、公正で迅速な保険金支払いを実現する業界共同取組みを継続するとともに、災害に乗じた悪質商法への対応を強化し、適切な保険金支払いを実現するための体制を整備いたします。また、実効性の高い防災・減災の取組みの実現に向けて、関係当局との連携を従来以上に強化してまいります。更には、事業者向け保険の普及を促進することで、災害に強い社会の実現に貢献してまいります。

(3)損害保険リテラシーの向上

 損害保険は、お客さまの“いざ”という時にお役に立つ、公共性の高い仕組みです。国民の皆さまに身の回りのリスクについてより深く認識いただき、損害保険を活用してリスクに備えることは、国民生活のレジリエンスを高めるために重要であると考えます。そのため、教育機関や行政、金融他団体とも連携を強化し、国民の皆さまの損害保険リテラシーの向上に努めてまいります。また、パソコンやタブレット端末の普及に伴い、教育現場ではICT教育が進んできており、当協会で提供している各種教育ツールのデジタル化も進めてまいります。

5.おわりに

 協会長就任時より、新型コロナウイルス感染症をはじめとする環境変化へ柔軟に対応しながら、「自然災害への対応力強化」、「金融・損害保険リテラシーの向上」、「業務の共通化・標準化の推進」に重点を置き、取組みを進めてまいりました。任期満了まで3か月となりましたが、3つの重点課題を中心として業界一丸となって着実に取組みを進めてまいります。

 引き続き皆さまのご支援・ご協力を宜しくお願い申し上げます。

以 上

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