協会長ステートメント
会長 広瀬 伸一

日本損害保険協会会長として、この1年間の主な取組みを振り返り、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症でお亡くなりになられた方々へ謹んで哀悼の意を表しますと共に、ご遺族ならびに罹患された方々に心からお見舞い申し上げます。また、医療従事者の皆さまや、様々な分野で社会機能を支えておられる皆さまに、損害保険業界を代表して感謝と敬意を表します。

 我が国においては、まん延防止、医療提供体制の維持、更にはワクチン接種機会の拡大等の対策が、総力を挙げて講じられてきました。一方、変異株等の影響によって重症者数は高い水準にあり、医療提供体制の逼迫も続いております。引き続き、国民の生命と健康を第一に、感染拡大防止と経済活動の両立を図っていくことが重要であると考えております。

2.第8次中期基本計画、第9次中期基本計画

 この1年間を振り返りますと、世界中が新型コロナウイルス感染症によって未曽有の危機に直面し、国民の生活様式や価値観・ニーズが根底から変化すると共に、社会の仕組みや構造なども広範にわたって見直しが求められることとなりました。損害保険業界としても、従来内在していた課題が顕在化したのみならず、その課題解決に向けた検討や取組みが加速いたしました。

 コロナ禍で迎えた2020年度は、第8次中期基本計画の最終年度であり、また2021年度からスタートする第9次中期基本計画の策定を担う、節目の年度でもありました。
 第8次中期基本計画では、「環境変化への迅速・的確な対応」「お客さま視点での業務運営の推進」「より強固で安定的な保険制度の確立」「国際保険市場におけるさらなる役割の発揮」の4つの方向性に沿って取組みを進めてまいりました。そして、その総括および新型コロナウイルス感染症が社会全体に与える影響を踏まえ、第9次中期基本計画を策定いたしました。本計画では、「持続可能なビジネス環境の整備」「災害に強い社会の実現」「損害保険リテラシーの向上」を重点課題に掲げ、2021年4月より取組みを開始しております。

 損害保険業界が、「社会課題を解決し、世の中に安心・安全を提供する」という、社会インフラとしての役割を果たし続けていくために、激甚化・多発化する自然災害や新型コロナウイルス感染症への対応といった足元の課題から、SDGs達成、気候変動対応、業務の共通化・標準化、損害保険リテラシーの向上等の中長期課題に至るまで、幅広い課題の解決に向け、会員会社の叡智を結集し取組んでいく決意であります。
 特に、気候変動対応については、中長期視点に立った骨太な取組みが求められる、グローバルかつ喫緊の課題であることから、次期協会長年度において更に注力してまいります。

3.新型コロナウイルス感染症への対応

 当協会は「新型コロナウイルス感染症対策に関する基本方針」を定め、感染症対策の体制を構築しております。会員会社においても、テレワークや非対面手続きの推進等により感染拡大防止を継続すると共に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたお客さまには、継続契約手続きや保険料支払いを猶予する等の特別措置を実施してまいりました。更に、新型コロナウイルス感染症に対応する保険へのニーズが高まっていることを受け、商品開発や新たな補償のご案内に鋭意取組んでおります。

 また、コロナ禍で発生した令和2年7月豪雨や、令和3年福島県沖・宮城県沖を震源とする地震等の大規模自然災害への対応として、被災地のお客さまへの感染拡大防止に最大限に配慮しつつ、迅速かつ適切な保険金支払いに努めてまいりました。将来、新たな感染症が発生することも想定して、今般得られた気づきを、今後の大規模自然災害における対応に活かしてまいります。

 新型コロナウイルス感染症の影響により先行きが不透明な状況において、様々な社会課題の解決に向けて取組む中で、損害保険が果たすべき使命、そして損害保険業界への期待を改めて認識いたしました。引き続き感染拡大防止を徹底しながら、損害保険業界の役割を果たしてまいります。

4.2020年度の重点取組み

 当協会は「自然災害への対応力強化」「金融・損害保険リテラシーの向上」「業務の共通化・標準化の推進」を2020年度の重点取組みに設定し、課題解決に取組んでまいりました。

(1)自然災害への対応力強化

 自然災害に強い社会の構築に向けて、いかなる状況においても迅速かつ適切な保険金支払いを実現するために取組みを進めてまいりました。風水災共同取組みと不正請求対策をテーマとして、「自然災害対応検討プロジェクトチーム」が中心となり、当協会と会員会社が連携して具体的な検討を重ねてきております。また、地震保険の普及啓発活動についても、東日本大震災から10年が経過する節目の年であることを踏まえ、より一層注力して取組んでまいりました。

① 自然災害対応検討プロジェクトチームの取組み

 風水災共同取組みでは、大規模水災発生時に、人工衛星を活用して建物の浸水範囲・深さを迅速に把握する業界共同の仕組みを構築いたしました。現在、本仕組みの更なる高度化に向け、関係当局との検討・折衝を継続しており、引き続き、激甚災害レベルの水災への備えを強化してまいります。
 また、防災・減災の観点から、国土交通省から講師を招き「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方」に関する会員会社向け説明会を開催し、流域治水に取組むこと、ハザードマップ等を通じた情報提供に取組むことの重要性を改めて確認いたしました。
 更に、ヤフー株式会社と連携し、大規模自然災害発生時に、スマートフォンのアプリケーション等を通じて、被災地のお客さまへ災害関連情報をプッシュ通知する仕組みも構築いたしました。引き続き、デジタルテクノロジーを活用した情報発信を強化し、防災・減災に貢献してまいります。

 不正請求対策では、大規模自然災害に便乗した悪質商法等のトラブルを防止するため、注意喚起情報の発信を強化しました。また、損害調査サポートツールを作成すると共に、そのデジタル化・AI化に向けた検討も進めております。より効果的な対策とするために、関係当局はもとより、日本損害保険代理業協会や日本損害鑑定協会との連携強化も図っております。今後もこうした取組みを積み重ね、健全な保険制度の維持に努めてまいります。

② 地震保険に関する取組み — 東日本大震災から10年 —

 東日本大震災から10年となる2021年3月には、大規模地震から命と財産を守るための“事前の備えの重要性”について広くお伝えするため、オンラインセミナーを開催いたしました。未曽有の大災害となった東日本大震災の経験や気づきを伝承し、震災の記憶を風化させないことは、損害保険業界の重要な使命であります。大規模地震が発生した際に、一人でも多くのお客さまのお役に立ち、その使命を果たすことができるよう、引き続き地震保険を普及してまいります。
 また、コロナ禍で発生した令和3年福島県沖・宮城県沖を震源とする地震への対応においては、人と人との接触機会を極力低減させるため、立会損害調査に代わってお客さま自身で損害状況をご申告いただく「自己申告方式」が有効と判断し、積極的に活用しております。この方式は、大規模地震災害時に備えて従来整備していたものでありますが、今後はコロナ禍での損害調査・保険金支払い業務の機動性を更に高めるため、デジタルテクノロジーを活用した取組みを加速させてまいります。
 なお、地震保険に関する様々な普及啓発の結果、2021年3月末の地震保険保有契約件数は約2,036万件(対前年比3.1%増)となりました。

 激甚化・多発化する自然災害への対応力の更なる強化に向けて、今後注力すべき取組みや解決すべき課題は明確になってきております。当協会として、自然災害に強い社会づくり、レジリエンスのある安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に貢献し続けるために、関係当局や団体、自治体等と従来以上に緊密に連携し、課題解決を図ってまいります。

(2)金融・損害保険リテラシーの向上

 自然災害や新型コロナウイルス感染症などによって社会の不確実性が増している中、損害保険に対する社会の期待も一段と高まってきております。そこで、日常生活における様々なリスクに適切に対処できる力として、「損害保険リテラシー」を養うことが益々重要になっているとの認識のもと、取組みを強化してまいりました。

 デジタルトランスフォーメーションの進展や新型コロナウイルス感染症の影響によって、当協会のリテラシー関連事業に対するニーズも変化してきております。事業環境や社会からのニーズの変化に対応していくために、従来は対面・集合・配布形式で行ってきた事業を、2020年度はオンライン・リモート・ペーパレス形式へと大幅に見直してまいりました。具体的な取組事例として、「ぼうさい探検隊アプリの活用」「ハザードマップの普及促進」や、金融リテラシーポータルサイト「そんぽ学習ナビの新設」が挙げられます。
 また、2022年4月に改訂される高校の学習指導要領では、新設科目である「公共」の授業の中で、民間保険について学ぶことが明記されました。教鞭を執られる高校教員の皆さまに、損害保険の役割や必要性をご認識いただくことが重要と考え、2021年2月に教育情報誌「そんぽジャーナル」を創刊いたしました。

 国民の皆さま一人ひとりの損害保険リテラシーを高めていくこと、その実現に向けて当協会のリテラシー関連事業を抜本的に見直していくことは、一朝一夕に実現できるものではありません。このため、当協会は本テーマを第9次中期基本計画における重点課題に掲げ、更に取組みを強化することといたしました。この3ヵ年で事業強化に向けた基盤づくりや啓発・教育手法の改革を進め、当協会ならではの事業に昇華させてまいります。

(3)業務の共通化・標準化の推進

 技術革新のスピードが加速する現代において、新しいテクノロジーを積極的に活用し会員各社の業務の共通化・標準化を進めることで、お客さまの利便性向上に繋げていく必要があると考えております。新型コロナウイルス感染症の影響によって、社会全体で書面・押印・対面を前提とする業務慣行を見直す機運が高まっていることも踏まえ、本取組みを強化してまいりました。

 当協会は、業務プロセスに関する業界課題の解決に向けて、2020年7月に事務検討特別部会を設置いたしました。これにより、お客さまとの契約締結から事故対応、保険金支払いに至るまでの会員会社の様々な業務について、業務プロセスの視点から課題を抽出し、解決に導く体制が整い、成果も出てまいりました。具体的には、2021年度中に「損害保険料控除証明書に関する共同システム」や、「共同保険に関する会員会社間の情報交換のペーパレス化」のサービスインを予定しております。

 ポストコロナの時代においても、お客さまのニーズが多様化していくものと想定されることから、利便性と品質を両立させながら、非対面・非接触・ペーパレスに適した業務プロセスを選定し、着実に具現化を図ってまいります。

5.おわりに

 当協会は、全ての会員会社に共通する「社会・お客さまが抱える課題解決のために、損害保険を通じてお役に立ちたい」という想いのもと、「損害保険業の健全な発展及び信頼性の向上を図り、安心かつ安全な社会の形成に寄与する」と定めた当協会の目的の実現に向け、今後も不断の努力を続けてまいります。

 この1年間、協会長として業務を遂行するにあたり、皆さまから温かいご支援、ご協力をいただいたことにつきまして、心より厚く御礼申し上げます。引き続き、損害保険業界、そして当協会に対するご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

以 上

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