協会長ステートメント
会長 舩曵 真一郎

 本年6月末に日本損害保険協会会長に就任して以降の主な取組みについてご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 令和3年7月1日からの大雨(7月豪雨)、台風9号、同年8月11日からの大雨(8月豪雨)などによる災害が各地で発生いたしました。お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表しますとともに、ご遺族および被害にあわれた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。また、被災地での救助・復旧活動などに携わられた方々に、深く感謝申し上げます。
 迅速に保険金をお支払いし、被災された皆さまが一日も早く日常を取り戻すのをお手伝いすることが、損害保険会社が果たすべき最も重要な役割です。当協会は、7月豪雨・8月豪雨による被害状況を踏まえ、「2021年度自然災害対策本部」を設置しました。会員各社は、災害救助法が適用された地域で被害を受けたお客さまに対して、ご契約の継続手続きや保険料のお支払いについて一定の猶予期間を設けるなどの特別措置を適用・実施しています。引き続き業界を挙げて、全力で対応してまいります。
 なお、災害救助法が適用された地域で、家屋の流失などにより、加入されている損害保険契約に関する手掛かりを失ったお客さまについては、当協会で契約照会を受け付けております。是非ご利用ください。
 台風や大雨の発生しやすい時期はまだ続きます。いざというときは、避難情報を踏まえつつ、早めに避難するなど、命を守る行動をお願いいたします。

2.新型コロナウイルス感染症への対応

 新型コロナウイルス感染症の脅威は収まる気配を見せていません。全国的にワクチン接種が進む一方、感染力が強いとされている変異株の広がりもあり、予断を許さない状況が続いています。
 このような状況下、当協会は、「新型コロナウイルス感染症対策に関する基本方針」を改定し、変異株の広がりを想定した感染対策強化を会員各社に促しました。また、会員各社は、リモートワークや非対面・非接触・ペーパーレス手続きの一段の拡大と推進に取り組むとともに、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたお客さまの保険料払込猶予などの特別措置期間を10月末まで延長するなど、社会のニーズに応える対応を行いました。
 今後も会員各社とともに本業およびその他活動を通じて、社会の安心・安全の実現に貢献していきます。

3.今年度の主要課題に関する具体的な取組み

(1)気候変動に関連する取組み

①自然災害リスクへの対応強化

a.災害対応

 7月豪雨・8月豪雨を受け、4月に稼働した共同取組みの枠組みのもと、要請のあった会員各社に対して、被災地の衛星画像データや浸水深データを提供し、被害状況の早期確認に活用しました。お客さまへの保険金支払いの更なる迅速化に向けて、今後も運用実績を積み重ねつつ、一段と実用性の高い枠組みにしていきます。
 今回の豪雨では、急峻な地形での土砂崩れや周囲より低い土地での浸水被害が発生しました。短時間で大きな被害をもたらす線状降水帯の怖さもあらためて印象付けられました。日頃から自然災害リスクの脅威や地域に潜む危険箇所を認識・把握しておくことが重要です。お客さまの安全を守る観点から、当協会は、自治体が作成しているハザードマップの活用方法を分かりやすくまとめたチラシを作成し、9月にリリースしました。ハザードマップと照らし合わせて見て、万が一の時の避難経路や今ご加入いただいている損害保険の補償内容を再確認いただければと思います。このチラシは、日本損害保険代理業協会(日本代協)とも連携し、代理店経由でお客さまに広く提供します。あわせて、ハザードマップを掲載している自治体のホームページにリンクを貼る、あるいは、地域における防災学習ツールとして配布するといった啓発・普及取組みも展開していきます。
 なお、ハザードマップの活用推進と地震保険の普及を目的として、全6回シリーズの防災テレビ番組をBS日テレで放映中です。是非自然災害の備えについて、ご家庭で話し合うきっかけにしてください。

b.防災・減災に向けた取組み

 強風による住宅屋根の被害を減らすために、2022年1月から新築住宅の瓦の留付け方法に関する基準が強化されます。既存の住宅についても、瓦屋根に強風対策を講じるための補助制度が拡充されました。当協会は会員各社と連携し、こうした防災・減災政策の周知徹底に取り組んでいます。
 また、当協会の支部では、現地の行政や研究機関等と連携し、お客さまの生活を守る地域防災を支援する活動を行っています。例えば、四国支部はこの6月に愛媛県・愛媛大学と共同で「『平成30年7月豪雨から3年』セミナーin愛媛」を開催、また、関東支部はこの7月に国土交通省北陸地方整備局主催の「信濃川 流域治水シンポジウム」に参画しました。それぞれ官民一体となった取組みを広くアピールするよい機会となりました。農地・農業水路も活用した川の流域治水や、行政の避難指示を口コミで広げていく「避難インフルエンサー」などの取組みは実践的で、心強く思います。
 このように、防災・減災に関しては、関係者がしっかりと連携した総合的な対策を講じることが重要です。損害保険業界ならではの視点を活かした行政への意見・提言や地域に根差した活動を今後も継続していきます。

c.令和4年度税制改正要望

  近年の自然災害の激甚化・頻発化の影響により、巨大災害発生時の備えである異常危険準備金残高が著しく減少し、台風や洪水などによる被害を補償する火災保険事業の持続可能性に懸念が生じています。このことを踏まえ、「令和4年度税制改正要望」では、火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実を含む要望を8項目掲げました。住宅など、お客さまにとって最大の資産を守る火災保険を安定的・持続的に提供し続けることは、私たちが使命を果たすうえで欠かせません。

②適正な保険金支払いに向けた取組み

 自然災害に便乗して、必要のない家屋修理を迫ったり、古くなった部分の修理代についても保険金が支払われると偽ったりする特定の住宅修理業者に関し、2020年度に消費生活センター等に寄せられた相談件数は約5,400件にのぼりました。前年度に比べて、お客さまが巻き込まれた トラブル件数は倍増しています。
 保険金の請求は、手数料を取る業者を介さず、簡単にかつ無料で行うことができます。災害後の住宅修理によるトラブルを避けるためにも、こうした業者の「保険金が使える」といった勧誘には応じずに、ご加入されている損害保険代理店や保険会社までご相談ください。
 当協会は、お客さまを守るため、被災地域の主要紙に掲載したお見舞広告にこうした業者に関する注意喚起メッセージを載せるとともに、各地の消費生活センターに関連情報を提供するなど、トラブルの防止・撲滅に努めています。また、消費者庁、警察庁、国民生活センターのご協力を得てリニューアルした注意喚起チラシを83.5万部作製しました。各地の消費生活センター、日本損害鑑定協会、会員各社からお客さまに配布するとともに、様々な機会を捉えて周知しています。加えて、この10月から保険料控除証明書にも注意喚起情報につながるQRコードを掲載します。
 不正請求検知のレベルアップを含む、業界ベースでの対策強化についても引き続き検討・推進していきます。

③気候変動対応方針の策定と会員各社の対応支援

 当協会の気候変動対応方針を7月15日に策定・公表しました。2050年までの脱炭素社会の実現に向けて、気候変動対応に関する会員各社の取組みの方向性を揃えるとともに、お客さまとの対話などを通じた啓発活動を行っていきます。
 会員各社の取組みを支える活動の第一弾として、グローバルリスクアンドガバナンス社代表の藤井健司氏を講師にお迎えした、社員向け勉強会を7月20日に開催しました。当日は、オンラインを中心に約800名が参加・視聴するなど、関心の高さがうかがえました。気候変動リスクのポイントとともに、金融機関、中でも損害保険会社に期待される役割について説明いただくなど、参加者の理解のレベルアップを図りました。
 また、気候変動対応に関する最新の動向やトピックスを会員各社に通知・解説するニュースレターの配信も開始しました。お客さま向けの電子パンフレットも間もなくリリースできる予定です。今後も会員各社とともに、脱炭素に向けた当業界の活動を強化・推進していきます。

(2)非対面・非接触・ペーパーレスの推進

 お客さまにお送りする保険料控除証明書の発行業務を共同化するシステムを10月にリリースするとともに、マイナポータルとの連携も開始します。保険料控除証明書のフォームが共通化され、保険料控除データを電子データで一括取得できるようになります。電子データによる年末調整が可能な職場にお勤めの方はペーパーレスで手続きできるほか、e-Taxご利用の方にとっては確定申告手続きが簡単になるなど、お客さまの利便性が向上します。
 今後も、社会のデジタル化、ペーパーレス化が一段と進むことを見据えて、お客さまにとっての分かりやすさや利便性の向上はもちろんのこと、保険会社の生産性アップにもつながる事務の特定と見直しを進めていきます。当協会に「事務検討PT」を9月に立ち上げ、会員各社とともに業務プロセスの効率化を加速していきます。

(3)リスクへの備えの一段の強化

 事業者のリスクテイク活動を保険という側面から支援していくため、中小企業を対象に、企業活動を取り巻くリスクに対する認識やその対策状況に関するアンケートを実施しました。アンケート結果を踏まえて、会員各社と連携しつつ、事業者向けの啓発活動を強化していきます。

(4)高校生を中心とした損害保険リテラシー向上

 当協会で作成している高校生向けのアクティブラーニング動画教材「明るい未来へTRY!~リスクと備え~」が、公益財団法人消費者教育支援センターが実施する「消費者教育教材資料表彰2021」で優秀賞を獲得しました。
 また、8月に生命保険文化センターと合同で、高校・中学校の教職員を対象としたセミナーを開催しました。2022年4月からの成年年齢の引下げが迫る中での関心の高まりを受け、昨年度の参加者の約2倍となる165名にご参加いただき、教材や授業の実践例を紹介しました。
 引き続きこうした活動に精力的に取り組み、これから社会に出て活躍する方々向けの損害保険教育の充実を図っていきます。

(5)その他各課題への取組み

①業務品質の持続的な向上

 当協会は、業務品質の不断の向上を図る観点から、損害保険の募集に関する高い知識や業務スキルを修得した募集人を認定する「損害保険トータルプランナー」の育成に力を入れています。今年、同資格取得に関するセミナーの一部について、これを運営している日本代協と連携し、オンラインでも受講できるようにする予定です。コロナ禍で非対面・非接触募集が増えている今だからこそ、お客さまの満足度向上のため、保険募集のプロフェッショナルを一人でも多く育成することに努めます。

②国際基準への適切な対応

 保険監督者国際機構(IAIS)の市中協議に関し、当協会として意見表明するなど、グローバルな規制環境の整備・改善に向けた取組みを継続しました。今後も行政と連携しつつ、対応を実施します。

③新興国市場への各種支援の強化

 東アジア諸地域に対する保険技術協力・交流プログラムとして1972年から毎年実施している日本国際保険学校(ISJ)の上級コースを7月、オンラインで開催し、9地域から16名が参加しました。また、インドネシアで開催中の「海外セミナー」には、約300名がオンラインで参加しています。今後も中長期的視点を持ってアジア損保市場の地歩向上に取り組みます。

④地域防災力の強化、救急医療体制の整備

 当協会は、1952年から全国各地の自治体に軽消防自動車や高規格救急自動車を寄贈しています。寄贈車両は、実際の消火・救急救命活動のほか、住民向けの消防訓練や災害時の避難誘導などに活用されています。今年度は新たに20台を寄贈し、累計の寄贈台数は5,169台となりました。

⑤地震災害への備え

 地震により被災された方の生活再建を支える地震保険を付帯している火災保険の割合(付帯率)は18年連続で増加し、2020年度末時点で68.3%となりました。特に首都直下地震や東海地震など海溝型の巨大地震の被災想定地域における付帯率が高まっています。これは大きな成果であり、啓発・普及に携わった官民の関係者に御礼申し上げます。一方、例えば付帯率が高い地域と低い地域で30ポイント以上の開きがあるなど、広く地震保険の普及を図る観点からは、まだ課題があります。
 8月から、「さあ、守りを固めよう」をキャッチコピーに、元サッカー日本代表の内田篤人さんをキャラクターとして起用した地震保険の理解・加入促進キャンペーンを実施しています。この機会に是非、地震保険への加入をご検討ください。

4.おわりに

 夏以降の相次ぐ自然災害の発生や新型コロナウイルス感染症の広がりなど、私たちを取り巻く環境は依然厳しい状況にあります。
 このような状況下にあるからこそ、社会課題と向き合う当業界の姿勢が一段と問われます。お客さまの安心・安全を支え続ける社会インフラとしての役割・機能を持続的に果たせるよう、当協会は、会員各社と一体となって、主要課題に真摯に取り組んでいく所存です。
 引き続き皆さまのご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

以 上

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