協会長ステートメント
会長 舩曵 真一郎
2022.03.17
協会長に就任して約9か月が経過しました。この間の主な取組みについて、ご報告と所感を申し上げます。
1.はじめに
ウクライナ情勢は依然深刻で、見通しも流動的です。金融市場の不安定化も続いています。事態の早期終結に向けた国際社会のあらゆる努力と取組みを支持します。
新型コロナウイルスの新規感染者数は1月に入って増加し、現在全国的に高止まりしています。罹患された方々の早期回復をお祈りするとともに、医療従事者をはじめとするすべてのエッセンシャルワーカーの皆さまにあらためて感謝申し上げます。一日も早い収束を願って、私たち損保業界も、リモートワークや非対面・非接触・ペーパーレス手続きの拡大を通じた感染対策の一段の強化に取り組んでいます。
また、1月以降、日向灘を震源とする地震や日本海側・北日本で猛威を振るった大雪など、災害が相次ぎました。昨夜発生した宮城・福島の震度6強の地震による影響については、現在確認・把握中です。被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。1月中旬に発生したトンガの海底火山の噴火がもたらした日本沿岸の潮位変化に続き、昨夜の地震による津波注意報などを目にして、東日本大震災を想起された方も多かったのではないかと思います。世界有数の災害大国であるわが国においては、日頃からの備えが欠かせません。
損保業界として、引き続き感染防止対策を徹底しながら、私たちの社会を取り巻くリスクとしっかり向き合い、お客さまの安心と安全の実現に力を尽くしてまいります。
2.今年度の主要課題に関する具体的な取組み
(1)気候変動に関連する取組み
①自然災害リスクへの対応強化
a.金融機関との連携による迅速な保険金支払いの実現
業界共同取組みとして、いわゆる質権付き火災保険契約(ローンで購入した住宅が被災した場合に支払われる保険金は、ローンを提供した金融機関が受け取る権利を有します)に関する災害時の保険金支払い手続きの簡素化を図ります。
一定の条件を満たす保険金支払いを対象に、金融機関の質権不行使の確認手続きを省略することで、お客さまが迅速に保険金を受け取ることができるようになる金融機関等との包括承認書の締結を目指します。被災したお客さまの早期の生活再建のみならず、質権を有する金融機関および損害保険会社の災害対応時の業務の集約と効率化につながるものであり、速やかな実現に向けて取り組みます。
b.「小学生のぼうさい探検隊マップコンクール」の実施
昨年12月に第18回「小学生のぼうさい探検隊マップコンクール」の入選・入賞作品を発表しました。同作品は当協会ホームページで紹介していますので、ぜひご覧ください。
「ぼうさい探検隊」は、子どもたちが自分たちの住む街を探検しながら、防災、防犯、交通安全上重要な地点や施設等を手作りのマップにまとめる実践的安全教育プログラムです。
今回、全国の小学校・子ども会・児童館・少年消防団など371団体から5,697人が参加し、971作品が寄せられました。過去の自然災害がもたらした被害の調査に基づく防災取組みをまとめた作品や、外国人居住者が多い地域ならではのピクトグラムや英語表記を取り入れた作品など、子どもたちの新鮮な視点と創意工夫が施された素晴らしい力作が目を引きました。
このような取組みは、世代をまたがる共助意識の向上と防災・減災活動の強化につながります。当協会としても、これからも一人でも多くの子どもが興味を持って、この取組みに参加してくれるよう一段と工夫を重ねていきます。
c.ハザードマップの普及活動
2022年度から高校で必修となる「地理総合」の授業では、ハザードマップの読み方も学びます。そうした学習を支援するため、今月、全国の高校約5,000校に当協会作成の「ハザードマップと一緒に読む本」を提供しました。全国の自治体が住民向けに発行している洪水・地震のハザードマップと照らし合わせて読むことで、住まいや学校周辺の危険地域の把握や避難経路の確認がスムーズに進みます。次世代を担う若い方々が、これまで以上に地域の防災・減災活動に関心を持つきっかけになればと願っています。
また、12月に国土交通省と連携して島根県美郷町で開催した「ハザードマップ利活用講習会」を紹介した記事と動画を1月に配信したほか、今月、当協会の四国および北陸支部が、香川県・石川県の損害保険代理業協会と連携し、代理店向けのハザードマップ理解促進セミナーをオンラインで開催しました。今後も、各地の防災取組みを支える観点から、地元に根ざしたハザードマップ普及活動に力を入れていきます。
②適正な保険金支払いに向けた取組み
自然災害に便乗して、必要のない家屋修理を迫ったり、古くなった部分の修理代についても保険金が支払われると偽ったりする悪質な住宅修理業者からお客さまを守るために、そうした業者の関与が疑われる保険金請求事案を検知できるツールの開発の検討を進めてきました。これまでの研究や先般実施したトライアルテストを通じて得た知見等を踏まえ、保険金請求関連書類の画像をAIで読み込んでデータ化する機能と、そのデータから不正な請求を検知する機能を持ったツールづくりを開始することとしました。会員各社は、自社の実務に合わせて、導入方法を調整できるようにします。また、当協会は、全体の枠組み管理や検知条件の連携などの支援を行い、ツールの普及に合わせて、業界全体の検知率を一段と高めていきます。なお、トラブルに巻き込まれるお客さまをこれ以上増やさないためにもスピード感のある取組みとすることが重要なことから、態勢が整った会社から順次ツールを活用していくようにします。
関連して、お客さまが日頃からこうした修理業者をより強く意識するよう、保険契約締結時の注意喚起を強化しています。当協会の「募集文書等の表示に係るガイドライン」を改定し、パンフレットや重要事項説明書を通じた注意喚起を会員各社に促しました。さらに、損害保険募集人向けの研修コンテンツを充実させていくことで、募集人を通じた対策強化も図っていきます。
加えて、当協会の地方支部では各地の消費生活センターや警察と連携した情報提供にも取り組みました。今後も多面的な対応・対策を通じて、お客さまの被害の撲滅を図ります。
③勉強会の開催等
12月24日、温室効果ガス排出量算定に関する会員会社の意見交換会を開催しました。排出量算定業者2社を講師としてお招きし、損害保険会社の排出量算定実務のポイントや課題について理解を深めました。
また、2月4日、金融庁のチーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー・池田賢志氏をお招きし、会員会社社員向けの第2回気候変動勉強会を開催しました。「気候変動には損害保険会社としてどのような姿勢で臨むべきなのか」をテーマとした同回には、オンラインを中心に約900名が参加しました。池田氏からは、損保業界は、自然災害対応力強化に継続的に取り組みつつ、お客さまと一緒になった気候変動対応を推進することでサステナブルな社会の実現に貢献していくべきとの示唆がありました。
今後もこうした勉強会等を通じて、会員会社社員の知識向上と業界対応のレベルアップを図っていきます。
加えて、7月に策定した「気候変動対応方針」と整合させる形で、2月に当協会の「環境保全に係る行動計画」「低炭素社会実行計画」「循環型社会形成自主行動計画」の内容を更新したうえで、それらを統合しました。これまで開催した勉強会等で得た知見や気づきも反映しています。引き続き社会の期待に沿うよう、会員会社のカーボンニュートラル実現に向けた取組みを促していきます。
(2)非対面・非接触・ペーパーレスの推進
①損害保険会社の事務におけるペーパーレス推進
a.共同保険契約情報交換のペーパーレス化
共同保険契約(複数の保険会社が共同して引き受けている契約)の契約情報を引受保険会社間で共有管理するために、年間約100万枚の紙帳票が会社間でやりとりされています。紙資源の削減、各社の業務ロードの軽減、社員のリモートワーク支援などの観点から、帳票を電子データで提供する共同システムを2月に立ち上げ、サービスを開始しました。今後も同システムの普及と活用を通じて、会員会社の事務効率化とお客さまへのサービス向上を図ります。
b.任意自動車保険の等級確認のペーパーレス化
自動車保険のお客さまが引受保険会社を変更する場合、新しい保険会社は、そのお客さまの事故実績に応じた「ノンフリート等級」(保険料の割増・割引)を当協会の共同システムを通じて確認します。同システムを補完するものとして一部紙帳票ベースの会社間やりとりが残っていましたが、順次ペーパーレス化していきます。これにより、お客さま情報のセキュリティ強化と各社の事務効率化を実現します。
②自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の効率化に向けた検討
お客さまの利便性を高めるため、契約申込みをはじめとする自賠責保険関連手続きのペーパーレス化や保険料払込みのキャッシュレス化を早期に実現することを目指します。関係省庁のご理解を得ながら、各社の契約情報を一元管理する共同システムの構築など、必要な態勢強化を進めていきます。
お客さまや損保業界のみならず、自動車業界等も含めた多くの関係者にメリットをもたらす取組みとなることから、速やかに具体的な開発内容やスケジュールを固めます。
(3)リスクへの備えの一段の強化
わが国の経済を牽引する中小企業のリスクテイク活動を支えることは当協会の重要な役割のひとつです。中小企業の役に立つ保険についてより多くの方に知っていただくため、当協会は同テーマについて、この分野に詳しい明治大学商学部・浅井義裕教授と中小企業経営者で対談を行い、年末から2月にかけて、中小企業向けのデジタルメディアで配信しました。最近、その脅威があらためて注目されているサイバー攻撃への備えを強化することの重要性についても取り上げています。
中小企業向け保険の普及促進取組みについては、現在中小企業庁や日本損害保険代理業協会とも連携して進めています。今後、地方経済産業局の協力も得て、各地で開催されるBCPセミナー等の場を活用した周知、啓発も行っていく予定です。
(4)高校生を中心とした損害保険リテラシー向上
4月から成年年齢が引き下げられ、また、高校の「公共」の授業で民間保険学習が開始されることを踏まえ、当協会は、教員の皆さまを支援するため、全国の高校約5,000校に、当協会作成のアクティブラーニング教材「明るい未来へTRY!~リスクと備え~」を提供しました。
また、高校の家庭科や公民科の教員の皆さまや教育委員会に、「そんぽジャーナル」の第2号をお届けしました。同号では横浜国立大学・西村隆男名誉教授をはじめとする有識者へのインタビューや当協会の教材を実際に使った授業プランなど、役立つ情報を多く盛り込んでいます。
これらの教材や資料は当協会の損害保険リテラシー教育支援サイト「そんぽ学習ナビ」からも簡単に入手できますので、積極的にご活用ください。これからも、若い方々の社会での活躍を損害保険の側面から支えていきます。
(5)その他各課題への取組み
①ADRで受け付けた苦情・相談情報の活用推進
「そんぽADRセンター」で受け付けたご相談や苦情に関するデータを分析し、今月、会員各社に提供しました。会員会社ごとの苦情特性や業界共通の課題を踏まえた一段の業務品質向上を図っていきます。
②募集品質を支える取組み
今月、損害保険募集人向けのe-ラーニング専用サイトを開設します。募集品質の向上につながる動画コンテンツを提供し、時間と場所を選ぶことなく利用できる、使いやすい継続学習インフラです。第一弾として、「募集コンプライアンス」、「情報セキュリティ」、「気候変動対応」について学ぶ動画を掲載します。募集人の皆さまは、計画的な知識・スキルのレベルアップのために積極的にお使いください。
また、1月から、代理店試験の受験や資格証明書等の表示に旧姓を使用できるようにしました。今後も募集人の多様なキャリアに配慮した運営を行っていきます。
③自賠責保険運用益拠出事業
当協会では、1971年から、損害保険各社の自賠責保険事業から生じた運用益を活用した自動車事故防止対策や交通事故被害者への支援事業を行っています。2022年度は、「歩行者事故低減を目的とした子ども用教育ツールの開発と普及に関する研究」や「交通事故遺族を対象としたグリーフケアの質の向上とその基盤整備に関する研究」などの新規研究を含めた40事業に約18億円を拠出します。今後も、ドライバーや被害者の役に立つ、意義のある事故防止・被害者支援事業を支えていきます。
④自動車盗難事故実態調査結果
当協会が毎年とりまとめている第23回自動車盗難事故実態調査結果を今月公表しました。
警察庁統計によれば、2021年の年間盗難件数は5,182件で、前年比28件減少しました。盗難防止装置の高度化や官民一体となった自動車盗難対策により、2003年の年間64,223件をピークに減少傾向が続いています。関係者皆さまにあらためて感謝申し上げます。
なお、全国的な車両盗難件数は落ち着いている一方、一部地域では車両盗難が引き続き発生しています。地域固有の事情や特性の有無も確認しつつ、対策のあり方を検討していきます。
⑤新興国市場への各種支援の強化
新興国の損害保険市場の健全な発展を支援する取組みの一環で、ベトナムやタイの官民関係者に対して、わが国の情報交換制度を含む不正請求防止の取組みに関するセミナーを実施するなど、当該国のニーズに合わせた技術支援を行っています。
引き続きアジア各国・地域の金融インフラ整備や国際市場におけるアジア損保市場の地歩向上に貢献していきます。
3.おわりに
協会長就任以降、お客さまの利益を守り、利便性を向上させることに焦点を合わせ、当協会の重点課題「持続可能なビジネス環境の整備」、「災害に強い社会の実現」、「損害保険リテラシーの向上」の実現に取り組んできました。
会員各社をはじめとする関係者皆さまのおかげで、ここまで多くの成果をあげることができていますが、業界としての気候変動対応などはまだ緒に就いたばかりです。悪質な修理業者とのトラブルからお客さまを守る取組みも継続的に強化を図っていく必要があります。
残り3か月となりましたが、対応を緩めることなく、お客さまの安心と安全の実現のために真摯に取り組んでいく所存です。
引き続きのご支援・ご協力を宜しくお願い申し上げます。
以 上